歯のトラブルは、猫に多い病気のひとつです。3歳以上の猫の約85%には、すでに歯周病(ししゅうびょう)の兆候が見られるといわれています。ですが猫は口の痛みを隠すのが上手で、食事も毛づくろいも普段どおりに続けるため、問題が進んでから気づく飼い主さんも少なくありません。
愛猫の歯に問題があるサイン
猫は歯が痛くても食事をやめることはめったにありません。変わるのは食べ方のほうで、その変化はさりげないものです。
食事のしかたの変化として、噛んでいる途中でフードをこぼす、片側だけで噛む、ドライフードを噛まずに丸飲みする、ドライフードよりウェットフードを好むようになる、食事にかかる時間が長くなるといった様子が見られることがあります。
体の変化としては、口臭(フードのにおいではなく、明らかに嫌なにおい)、よだれ(血が混じることも)、歯茎の赤みや腫れ、目に見える歯石の付着、歯の変色やピンク色の斑点、歯茎の近くに穴のようなものが見える、顔の片側が腫れるなどがあります。
行動の変化では、前足で口や顔をこする、食べながら頭を振る、顔や頭を触られるのを嫌がる、毛づくろいが減って毛が絡まる、隠れることが増えて遊びに消極的になるといった反応が見られます。
こうした変化がすべて歯から来ているとは限りません。体のほかの場所の痛みでも、目を細めたり耳を倒したりすることがあります。いくつかのサインが重なっているときは、獣医師に口の中を診てもらいましょう。
こうした変化をFurwiseに記録しておくと、いつから始まったかを獣医師に伝えられます。
自宅でできる口腔ケア
毎日の口腔ケアで歯垢(しこう)がたまるのを遅らせると、歯科処置の間隔も延ばせます。
歯磨きの進め方
自宅の口腔ケアの中で最も効果が高いのが歯磨きです。完璧にする必要はなく、歯の外側を30秒ほど磨くだけでも効果があります。歯磨き粉は必ず猫用を使いましょう。人間用は猫が飲み込むと危険です。ブラシは小型の柔らかいものか、指サック型を用意します。
大切なのは、焦らず段階的に慣れさせることです。急いで進めると、猫が歯磨きそのものを嫌いになってしまいます。
第1〜2週:飼い主さんの指から歯磨き粉を舐めさせるだけにします。味に慣れてもらい、口の周りに触れられることに抵抗をなくしていきます。
第3週:指に歯磨き粉をつけて、歯茎に沿って優しく塗ります。まずは上の歯の外側から、1回30秒以内にしましょう。
第4週:ブラシか指サック型ブラシに切り替えます。まず猫にブラシのにおいを嗅がせ、舐めさせてから、片側の数本だけ磨いて終わりにします。
継続:少しずつ両側を磨けるようにしていきます。上の歯の外側面が最も歯垢が溜まりやすい場所なので、そこを重点的に磨きましょう。毎日が理想ですが、週3〜4回でも効果があります。
どうしても歯磨きを受け入れてくれない猫もいますが、それでも大丈夫です。磨ける歯だけでも、続けていれば役に立ちます。
VOHC(獣医口腔衛生審議会)認定製品
VOHCは、口腔ケア製品の効果を臨床試験で確かめているアメリカの機関です。基準を満たした製品にはパッケージに認定マークがあるので、選ぶときの目印にしてください。
歯科用フードは、通常のドライフードより粒が大きく繊維質のある設計で、噛むと歯の表面がこすられます。飲水添加剤は、飲み水に混ぜるだけで口の中の細菌を減らしてくれるタイプの製品です。愛猫があまり水を飲まないタイプであれば、添加前に水分補給ガイドも参考にしてください。デンタルおやつは歯垢の軽減を目的としたものですが、猫は犬ほどこの手のおやつを好まない傾向があります。
いずれも歯磨きや歯科処置の代わりにはなりませんが、組み合わせて使うと役に立ちます。
動物病院を受診すべきタイミング
以下の症状が見られたら歯科検査を
- 持続的な、あるいは悪化している口臭
- 歯茎の赤み、腫れ、出血
- 目に見える歯石(歯に付着した黄褐色の堆積物)
- よだれ(特に新たに始まった場合や血が混じる場合)
- 食べ方の変化(フードをこぼす、食の好みが変わる)
- 前足で口や顔をこするしぐさ
- 歯に目に見える異常(ピンク色の斑点、歯茎の近くの穴)
- 片側の顔の腫れ
- 原因不明の体重減少
症状がなくても、年に1回は獣医師に歯を診てもらいましょう。クリーニングが必要かどうかは、その結果で決まります。7歳以上の猫は半年に1回の検診がおすすめです。
歯科処置(デンタルクリーニング)で行うこと
歯科クリーニングは、歯の病気を治療するうえで最も効果的な方法です。歯茎の下の状態を確かめられるのも、このときだけです。
なぜ全身麻酔が必要なのか
歯科クリーニングには全身麻酔が必要です。米国猫医療協会(AAFP)などの獣医療ガイドラインでも、無麻酔での歯石取りは勧められていません。
本当に取り除くべきなのは歯茎の下の歯石で、病気の原因になる細菌の多くはそこにいます。獣医師は全顎(ぜんがく)のレントゲン撮影や、1本ずつの歯周ポケットの検査も行います。どちらも、猫が起きている状態ではできません。無麻酔では見える歯石しか取れず、見た目はきれいになっても歯茎の下の問題は残ります。削られて粗くなった歯の表面には、かえって歯垢が付きやすくなります。
今の麻酔はかなり安全になっています。術前に血液検査で体の状態を確かめ、処置中も心拍数や血圧、体温などを見守り続けます。愛猫が太りぎみの場合は、麻酔計画に影響するため獣医師に伝えておきましょう。
処置の流れ
- 術前血液検査で麻酔に耐えられる状態か確認
- 全身麻酔と継続的なモニタリング(心拍、血圧、血中酸素、体温)
- 全顎の歯科レントゲン撮影
- 1本ずつの歯の検査とプロービング
- 超音波スケーリング(歯茎の上下の歯石を除去)
- ポリッシング(歯の表面を滑らかに仕上げる)
- 必要に応じた抜歯(レントゲンと検査の結果に基づく)
- 疼痛管理と術後の回復モニタリング
見た目では異常がなかった猫でも、42%にレントゲンでしか見つからない重大な歯の病気がありました。歯科処置にレントゲン撮影が欠かせないのはそのためです。
猫に多い歯科疾患を知る
猫の歯科疾患の大半は、歯周病、歯の吸収、口内炎の3つで説明できます。どれにあたるかがわかると、獣医師が特定の治療を勧める理由も見えてきます。
歯周病(ししゅうびょう)
歯周病は歯垢から始まります。歯垢は歯の表面にできる細菌の膜で、クリーニングをしても数時間でまた付き始めます。そのままにすると数日で歯石に変わり、ざらざらした歯石の表面にさらに歯垢がたまっていきます。
| ステージ | 何が起きているか | 回復は可能か |
|---|---|---|
| 歯肉炎(しにくえん) | 歯茎が赤く腫れて炎症を起こしているが、組織の損失はまだない | 治療すれば回復可能 |
| 初期歯周炎 | 歯茎が歯から離れ始め、浅い歯周ポケットができる | 部分的に可能 |
| 中等度歯周炎 | ポケットが深くなり、レントゲンで骨の吸収が確認できる | 不可逆だが進行を抑えられる |
| 重度歯周炎 | 深刻な骨の吸収、歯の動揺、歯が抜け落ちることも | 不可逆、多くの場合抜歯が必要 |
完全に元に戻せるのは歯肉炎の段階だけです。歯を支える骨や靭帯(じんたい)が壊れ始めると、進行を遅らせることはできても、元には戻りません。愛猫に症状がなくても定期的に歯科検診を受けたいのはそのためです。歯周病が長く続くと、口の中だけでなく腎臓病との関連も指摘されています。
歯の吸収(しのきゅうしゅう)
歯の吸収は、猫自身の体が歯の構造を分解・吸収し始める疾患で、歯根または歯茎付近の表面から進行します。報告によって数字の幅が大きく、猫の約20〜67%に見られるとされています。病変の多くは歯科レントゲンでしか見つけられません。
現時点で予防する方法は見つかっておらず、時間とともに悪化する傾向があります。吸収が進んだ歯は、猫がそぶりを見せなくても痛みがあります。獣医師がレントゲンを見て治療法を決め、基本は抜歯です。歯根がすでに顎骨(がっこつ)と癒合(ゆごう)している場合は、見えている部分だけを取り除くこともあります。治療後は、たいてい痛みがなくなります。
口内炎(こうないえん)
口内炎(猫慢性歯肉口内炎(まんせいしにくこうないえん))は、歯茎だけでなく口腔全体に及ぶ重度の炎症性疾患です。口の奥に真っ赤に腫れた組織が見られ、よだれ、強い口臭、前足で顔をこする動作、食事の痛みによる体重減少などが起こります。食事を完全にやめてしまう猫もいます。
免疫系が歯垢に対して過剰に反応することが原因と考えられています。薬物療法で一時的に症状を和らげることはできますが、多くの猫にとって最も効果的な治療法は、ほぼすべての歯の抜歯です。ほぼすべての歯を抜いた猫の約60〜80%で、症状がなくなるか大きく改善しています。猫は歯がない生活に思った以上に早く慣れ、術後に元気や食欲を取り戻す猫も多くいます。
よくある質問
猫の歯科クリーニングはどのくらいの頻度で必要ですか? 猫によって違います。年に1回は獣医師に歯を診てもらい、クリーニングが必要かどうかはその結果で決めましょう。口腔が健康な猫であれば数年に1回で済むこともあれば、歯石が付きやすい猫や歯肉炎がある猫は毎年必要になることもあります。
歯科処置の麻酔は安全ですか? 大多数の猫にとって安全です。術前に血液検査で体の状態を確認し、処置中は継続的にモニタリングされます。全身麻酔にリスクがないわけではありませんが、歯科疾患を放置することにもリスクがあります。高齢の猫や持病がある猫は、獣医師とよく相談しましょう。
猫が歯磨きをさせてくれません。他にできることはありますか? 歯磨きを嫌がる猫は珍しくありません。VOHC認定の歯科用フード、飲水添加剤、デンタルおやつで歯垢を減らせます。歯磨きほどの効果はありませんが、何もしないよりはずっと役に立ちます。いちばん大切なのは、定期的な歯科検診で問題を早めに見つけることです。
猫の口臭がひどいのはなぜですか? 食後に多少のにおいがあるのは正常です。口臭が続く場合は、歯石や歯肉炎、もっと進んだ歯の病気であることがほとんどです。場合によっては腎臓病など他の健康問題のサインであることもあります。においが強い、または悪化している場合は獣医師に相談しましょう。
猫は抜歯後も普通に食べられますか? 食べられます。多くの猫は術後1〜2日でウェットフードを食べ始め、ドライフードも問題なく食べる猫も少なくありません。意外に思えますが、痛む歯を抜いたあとのほうが、よく食べるようになる猫も多くいます。
歯のトラブルの多くは治療できますが、気づきにくいのが難しいところです。普段から食べ方を見て、あくびのときに歯茎をちらっと確認してみてください。年に1回の健康診断では、歯も診てもらいましょう。しばらく検診を受けていないなら、一度予約してみてください。
参考文献
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