
猫は痛みを隠すのがとても上手な動物です。野生では弱みを見せることが天敵を引き寄せるため、不快感を隠す本能を持っています。飼い主さんにとっては悩ましいことですが、愛猫が明らかに具合が悪そうに見えるころには、すでに深刻な状態になっていることも少なくありません。ですが、今は痛みを早めに見つけるためのツールがあります。
なぜ猫は痛みを隠すのか
猫の祖先は単独で行動する捕食者であると同時に、大型動物にとっての獲物でもありました。そのような環境では、弱みを見せること自体が危険です。家猫は安全な環境で暮らしていても、この本能は根強く残っています。
そのため、猫は犬のように痛みで鳴き声をあげることがほとんどありません。軽度から中程度の痛みでは、目に見える行動の変化がないことも多いのです。愛猫が明らかに隠れたり、食事や水を摂らなくなったりしたときには、すでに緊急の対応が必要な段階かもしれません。だからこそ、小さなサインに気づくことが大切です。
猫グリマススケール(Feline Grimace Scale)とは
2019年、モントリオール大学の研究チームが猫グリマススケール(FGS)を発表しました。猫の表情から痛みを評価するツールで、研究で科学的に裏付けられたツールで、専門的な知識がなくても使えるのが特徴です。
下のツールを使って、愛猫の状態をチェックしてみましょう。5つのチェック項目について、それぞれ0〜2点で評価してください。
痛み評価ツール
愛猫の現在の表情に基づいて、各項目のスコアを選択してください
スコアの読み方
合計スコアは0〜10点です。4点以上の場合は痛みを感じている可能性があり、獣医師の診察を受けることをおすすめします。
正しい評価のコツ
観察のタイミング:愛猫が静かに休んでいるときを選びましょう。目を覚ました直後や食事中、遊んでいる最中は避けてください。
大切なポイント:一つの項目だけでなく、全体の印象を見ることが重要です。普段の愛猫の「いつもの表情」を知っておくと、変化に気づきやすくなります。
よくある間違い:眠たい目と痛みによる目の細めは似ています。一度の観察だけで判断せず、時間帯を変えて何度か確認してみましょう。
表情以外の痛みのサイン
表情の変化だけでなく、以下のような行動の変化も痛みを示している可能性があります。
活動の変化:ジャンプの回数が減る、跳ぶときに躊躇(ちゅうちょ)する、歩き方が変わる、横になっている時間が増えるといった変化が見られることがあります。
日常習慣の変化:食欲が落ちる、毛づくろいの仕方が変わる(しなくなる、または特定の部位ばかり舐める)、トイレの使い方が変わるなどの変化にも注意しましょう。
性格の変化:いつもより隠れるようになる、飼い主さんとの触れ合いを避ける、触られると怒るようになるといった反応は、痛みのサインかもしれません。
動物病院を受診すべきタイミング
次のような症状が見られたら、獣医師の診察を受けましょう。
猫グリマススケールのスコアが4点以上の場合や、痛みのサインが24時間以上続いている場合は、早めの受診をおすすめします。食欲がない、水を飲まない、嘔吐(おうと)や下痢(げり)といった症状がある場合も同様です。愛猫が跛行(はこう)していたり、特定の場所を触ると強く反応したりする場合も、獣医師に相談しましょう。
猫は痛みを言葉で伝えることができません。だからこそ、飼い主さんの観察が頼りです。猫グリマススケールを使えば、「なんとなく調子が悪そう」という感覚を具体的な数値で確認できます。気になることがあれば評価してみて、4点以上なら迷わず動物病院に相談しましょう。
よくある質問
猫が痛がっているかどうか、どうすればわかりますか? 表情の変化に注目しましょう。目を細める、耳が外側に倒れる、ヒゲが緊張して前に向く、口元がこわばる、頭の位置が下がるといった変化が見られます。猫グリマススケールではこの5項目をそれぞれ0〜2点で評価し、合計4点以上なら痛みの可能性があります。隠れる、食べない、跛行する、触ると嫌がるといった行動にも注意してください。
猫グリマススケール(FGS)とは何ですか? 2019年にモントリオール大学の研究チームが開発した痛み評価ツールです。耳、目、ヒゲ、口元、頭の位置という5つの表情項目を0〜2点で評価します。科学的に有効性が検証されており、獣医師でなくても使えます。
猫は痛みで泣くことがありますか? 人間のように涙を流すことはありません。急性の強い痛みでは鳴き声(悲鳴、シャーという声、うなり声)を出す猫もいますが、多くの猫は痛くても沈黙を保ちます。そのため、声よりも表情や行動の変化のほうが信頼できる指標です。
FGSのスコアが何点なら動物病院に行くべきですか? 10点満点中4点以上が受診の目安です。4点以上であれば、獣医師に相談しましょう。スコアが高く、さらに食欲がないなどの症状も見られる場合は、できるだけ早く受診してください。
参考文献
- Evangelista, M. C., et al. (2019). Facial expressions of pain in cats: the development and validation of a Feline Grimace Scale. Scientific Reports, 9, 19128. DOI
- Merola, I., & Mills, D. S. (2016). Behavioural signs of pain in cats: An expert consensus. PLoS ONE, 11(2), e0150040.
- Feline Grimace Scale. (2023). felinegrimacescale.com
- International Association of Feline Practitioners. (2022). AAFP Pain Management Guidelines.