猫のワクチン接種ガイド|種類・スケジュール・注意点を解説

猫のワクチン接種ガイド|種類・スケジュール・注意点を解説

ワクチンは、愛猫を深刻な感染症から守る最も効果的な手段のひとつです。ただ、3種混合、5種混合、狂犬病など種類がいくつもあり、接種スケジュールも複雑で、どれを選べばいいのか迷う飼い主さんも少なくないはずです。この記事では、日本の環境に合わせて知っておきたいポイントを整理しました。

なぜワクチン接種が大切なのか

猫は複数の深刻なウイルス・細菌感染症にかかる可能性があり、中には発症すると治療法がない疾患もあります。ワクチンは、愛猫の免疫システムに病原体の情報を覚えさせ、実際に感染したときに素早く対抗できるようにする仕組みです。

ワクチンを接種しないと、どのようなリスクがあるのでしょうか。たとえば、猫汎白血球減少症(はんはっけっきゅうげんしょうしょう、いわゆる猫パルボ)は子猫の死亡率が非常に高い感染症です。猫白血病ウイルス(FeLV)は免疫機能を低下させ、リンパ腫などのがんにつながることもあります。また、猫ヘルペスウイルスやカリシウイルスによる上気道感染症も、重症化すると命に関わります。

コアワクチンを適切に接種することで、これらの疾患を効果的に予防できます。

コアワクチンとノンコアワクチン

獣医療の国際ガイドライン(WSAVA)では、猫のワクチンを2つに分類しています。

コアワクチンはすべての猫に推奨されるワクチンです。日本で最も一般的なのは3種混合ワクチンで、猫汎白血球減少症(FPV)、猫ヘルペスウイルス(FHV-1)、猫カリシウイルス(FCV)の3つの感染症を予防します。

ノンコアワクチンは、愛猫の生活環境やリスクに応じて接種を検討するワクチンです。代表的なものは猫白血病ウイルス(FeLV)ワクチンで、外に出る猫や多頭飼いの環境にいる猫に推奨されます。子猫は成猫よりFeLVに感染しやすいため、1歳未満の猫にはコアワクチンとして扱うガイドラインもあります。

猫クラミジアや猫ボルデテラのワクチンは、ブリーダーや保護施設など集団飼育環境でリスクが高い場合に検討されます。

猫伝染性腹膜炎(FIP)のワクチンについて

FIPのワクチンは存在しますが、現在のWSAVAおよびAAFPガイドラインでは有効性が限定的として推奨されていません。

日本で一般的なワクチンの種類

日本の動物病院で接種できる猫用ワクチンは、主に以下の組み合わせです。

種類予防できる感染症費用の目安
3種混合猫パルボ(FPV)、猫ヘルペス(FHV-1)、猫カリシ(FCV)約3,000〜5,000円
5種混合3種+猫白血病(FeLV)+猫クラミジア約5,000〜10,000円

完全室内飼いの猫であれば、3種混合ワクチンが基本です。外に出る猫、多頭飼いの猫、保護施設から迎えた猫などは、猫白血病を含む5種混合が推奨されることがあります。かかりつけの獣医師と相談して、愛猫に合ったワクチンを選びましょう。

日本における狂犬病ワクチンの位置づけ

狂犬病は発症すると100%致死であり、人にも感染する非常に危険な疾患です。ただし、日本は1957年以来、国内での狂犬病発生がない「清浄国」です。

日本の狂犬病予防法では、犬の飼い主に年1回の狂犬病ワクチン接種が義務づけられています。一方、猫については法的な接種義務はありません。そのため、日本国内の動物病院では猫の狂犬病ワクチンを日常的には接種しないケースが多いです。

ただし、愛猫を海外に連れて行く予定がある場合は、渡航先の国が狂犬病ワクチン接種を求めていることがほとんどです。また、外に出る猫やコウモリとの接触リスクがある猫には、予防として接種しておくと安心です。

子猫のワクチン接種スケジュール

子猫は母猫の初乳から移行抗体(いこうこうたい)と呼ばれる抗体を受け取ります。この抗体が体内にある間はワクチンの効果が十分に発揮されませんが、いつ消えるかは個体差があります。そのため、子猫には複数回のワクチン接種が必要です。なお、これから子猫を迎える方は、ワクチンだけでなく社会化期、用品、家の中の安全対策、初回の健診までを通してまとめた子猫のお迎えガイドもあわせてご覧ください。

時期接種するワクチン
生後8〜9週3種混合 1回目(必要に応じてFeLVワクチン 1回目)
生後12週頃3種混合 2回目(必要に応じてFeLVワクチン 2回目)
生後16週以降3種混合 3回目
生後6か月頃追加接種(WSAVAガイドラインで推奨)

最後の3種混合は生後16週以降に接種することが重要です。移行抗体が消失した後にワクチンの刺激を受けることで、愛猫自身の免疫がしっかりつきます。

成猫の追加接種(ブースター)スケジュール

子猫の基礎免疫が完了した後は、定期的な追加接種で免疫を維持します。

ワクチン追加接種の頻度
3種混合3年ごと(WSAVA推奨)。日本では従来1年ごとが一般的だったが、国際ガイドラインに基づき3年間隔を採用する動物病院も増えている
猫白血病(FeLV)リスクのある猫は2〜3年ごと

日本では長年にわたり毎年の接種が標準とされてきましたが、WSAVAの2024年ガイドラインでは、コアワクチンの追加接種は3年ごとで十分な免疫が維持されるとしています。かかりつけの獣医師と相談し、愛猫の生活環境に合ったスケジュールを決めることが大切です。

FeLVワクチンを接種した子猫は、生後1年前後に1回目の追加接種を行います。その後、完全室内飼いで他の猫との接触がない場合は、以降の追加接種が不要になることが多いです。

注射部位と注射部位肉腫(FISS)

一部のワクチンに含まれるアジュバント(免疫増強剤(めんえきぞうきょうざい))は、注射部位に強い炎症を引き起こすことがあります。発生頻度は約1万回の接種に1例程度と非常にまれですが、慢性炎症が続くと異常な細胞増殖につながることがあります。これが**注射部位肉腫(ちゅうしゃぶいにくしゅ、FISS:Feline Injection-Site Sarcoma)**と呼ばれる悪性腫瘍です。

かつてはすべてのワクチンを肩甲骨(けんこうこつ)の間に注射していました。しかし、その部位に腫瘍が発生するケースが報告され、肩甲骨間の腫瘍は広範囲な切除が難しいことがわかりました。そのため、現在の国際ガイドラインでは四肢への注射が推奨されています。万が一腫瘍ができた場合でも、四肢であれば切除や断脚で対応でき、予後が大きく改善します。

ワクチンごとの注射部位

AAFPが標準化した部位は以下の通りです。万が一腫瘍ができたときに、原因のワクチンを特定できるようにするためです。

ワクチン注射部位
狂犬病右後肢、膝より下
猫白血病左後肢、膝より下
3種混合右前肢

愛猫のワクチンがまだ肩甲骨の間に打たれている場合は、獣医師に現在のガイドラインについて相談してみましょう。

アジュバント不使用ワクチン(ピュアバックス)

アジュバントがFISSの引き金になることから、アジュバントを含まないワクチンも開発されています。ベーリンガーインゲルハイム社の**ピュアバックス(PureVax)**は、組換えウイルス技術を使ってアジュバントなしで免疫を獲得させるワクチンです。

ピュアバックスは一般的なワクチンより費用が高めですが、AAFPはアジュバント不使用のワクチンを推奨しています。取り扱いのある動物病院に確認してみてください。ただし、正しい部位(四肢)に接種されるアジュバント入りワクチンも十分安全です。

3-2-1ルール

接種後に注射部位に小さなしこりができるのは正常で、通常2〜4週間以内に消えます。ただし、以下の場合は獣医師に相談してください。

  • 接種後3か月経ってもしこりが残っている
  • しこりの直径が2cmを超えている
  • 接種後1か月経ってもまだ大きくなっている

これを3-2-1ルールと呼びます。FISSを早期に発見するための最もシンプルな目安です。

接種後の注意点

ワクチン接種後は、24〜48時間ほど愛猫の様子を観察しましょう。痛みのサインの見分け方を知っておくと、異変に気づきやすくなります。

軽い副反応は正常です。少し元気がなくなる、食欲が落ちる、軽い発熱、注射部位のわずかな腫れなどが見られることがあります。

ただし、嘔吐や下痢が続く場合、顔の腫れや呼吸困難が見られる場合(アレルギー反応)、注射部位のしこりが3-2-1ルールに当てはまる場合は、すぐに獣医師に連絡してください。

接種後は動物病院で30分〜1時間ほど待機し、急性のアレルギー反応がないことを確認してから帰宅するのが安心です。

Furwise でできること

多頭飼いの場合、それぞれのワクチン接種スケジュールを管理するのは大変です。Furwiseでは、愛猫ごとにワクチン接種履歴を記録したり、追加接種の時期が近づいたらお知らせしたりする機能を開発中です。

ワクチンは、愛猫を感染症から守るための最も確実な方法です。3種混合を基本に、生活環境に応じてFeLVワクチンを加えるのが日本では一般的な選択肢です。子猫の基礎免疫が完了したら、成猫の追加接種は獣医師と相談しながら進めましょう。注射部位についても気に留めておくと安心です。

よくある質問

室内飼いの猫でもワクチンは必要ですか? 必要です。コアワクチン(3種混合)は、室内飼いの猫にも推奨されます。猫パルボウイルスは環境中で非常に強く生存し、飼い主さんの靴や衣服について室内に持ち込まれる可能性があります。完全室内飼いであっても、基礎免疫と定期的な追加接種は大切です。

成猫の追加接種はどのくらいの頻度が必要ですか? 子猫の基礎免疫完了後、3種混合はWSAVAのガイドラインで3年ごとの追加接種が推奨されています。日本では従来1年ごとが一般的でしたが、3年間隔を採用する動物病院も増えています。猫白血病ワクチンはリスクのある猫のみ、2〜3年ごとに接種します。

ワクチンは安全ですか? 安全です。副反応の多くは軽い倦怠感(けんたいかん)や軽度の発熱、注射部位の腫れなど一時的なものです。重度のアレルギー反応はまれです。ワクチンを接種しない場合に感染症にかかるリスクのほうが、ワクチンの副反応のリスクよりはるかに大きいといえます。

アジュバント入りとアジュバント不使用のワクチンはどう違いますか? アジュバントは免疫反応を高める添加物です。ごくまれに、アジュバント入りのワクチンが注射部位肉腫(FISS)の原因になることが報告されています。アジュバント不使用のワクチンはそのリスクが低く、利用できる場合は推奨されます。

参考文献

  1. Stone, A. E., et al. (2020). 2020 AAHA/AAFP Feline Vaccination Guidelines. Journal of Feline Medicine and Surgery, 22(9), 813-830. DOI
  2. WSAVA Vaccination Guidelines Group. (2024). Guidelines for the Vaccination of Dogs and Cats. WSAVA
  3. 厚生労働省. 狂犬病に関するQ&A. mhlw.go.jp
  4. 農林水産省 動物検疫所. 狂犬病について. maff.go.jp