猫は体調の悪さを隠すのが上手で、年をとってもそれは変わりません。シニア猫が明らかに調子が悪そうに見えるころには、不調が数か月続いていることも少なくありません。だからこそ、シニアケアは病気が見つかる前から始めたいものです。小さな変化に気づくこと、定期的に検査を受けること、家の中を愛猫に合わせて整えること。毎日いっしょに暮らしている飼い主さんだからこそできることです。
猫は何歳から「シニア」?
いま広く使われているのは、2021年の米国動物病院協会(AAHA)と米国猫医療協会(AAFP)による猫のライフステージガイドラインです。区分は4つで、子猫(〜1歳)、若年成猫(1〜6歳)、成熟期(7〜10歳)、シニア(10歳以上)です。以前は15歳以上を「高齢期」として分けていましたが、新しい分類ではシニアにまとめられました。ケアの内容はほぼ同じで、検査の間隔が短くなるだけです。
「猫の1年は人の7年」という換算は大まかすぎます。目安としては、12歳の猫が人の64歳くらい、16歳が80歳くらいです。ただ、老化の速さは猫によって大きく違い、遺伝、体重、歯の状態、室内飼いかどうかでも変わります。同じ10歳でも、体の状態はかなり違うことがあります。
ふつうの老化と、ふつうではない変化
年齢によるふつうの変化もあります。眠りが深く長くなる、遊びが減る、被毛のツヤが落ちる、聴力や視力が少しずつ衰える、などです。衰えはゆっくりなので、飼い主さんが気づかないこともよくあります。ただし、ジャンプが控えめになったり毛づくろいが減ったりするのは、年のせいではなく関節の痛みのこともあります。
次のような変化があれば、動物病院を受診しましょう。
- 水を飲む量が増えた
- 原因がわからないまま体重が減る、よく食べるのにやせる
- 月に1〜2回以上吐く
- 便秘や下痢(げり)が続く
- 口臭がいつもと違う
- 最近になって夜鳴きが始まった
- トイレの使い方が変わった
「食べる・飲む・出す」に目立つ変化があるときは、年齢だけが理由ではないことがほとんどです。
やっかいなのは、こうした変化がとてもゆっくりなことです。腎臓病はある日突然始まるわけではなく、飲水量は何か月もかけて少しずつ増え、体重は100〜200グラムずつ減り、活動量も少しずつ落ちていきます。シニア猫こそ、家で記録を続けて、前と比べられるようにしておきたいものです。
シニア猫でいちばん見落とされやすい関節の痛み
12歳以上の猫の約9割には、レントゲンで変形性関節症(へんけいせいかんせつしょう)の変化が見られ、多いのは肘(ひじ)、股関節、背骨です。ところが、愛猫の関節の痛みに気づいている飼い主さんは、それよりずっと少ないのが現状です。
猫は犬のようにはっきり足を引きずることが少なく、痛みは小さな変化として現れます。
- 以前は楽に跳び乗れていた場所の前で、ためらったり一拍置いたりする
- 階段の上り下りが慎重になり、家具を踏み台にする順番が変わる
- 背中、腰、しっぽの付け根の毛が整っていない(関節が痛いと届きにくい場所です)
- 怒りっぽくなり、特に腰やお尻まわりを触られるのを嫌がる
- これまでの高い場所ではなく、低い場所で寝るようになる
- 縁の高いトイレをまたげなくなって失敗する
「年だから動きがゆっくりになっただけ」と思われがちですが、その多くは痛みで、治療でやわらげることができます。
こうした変化に心当たりがあれば、動物病院で痛みの評価を相談してみてください。猫の関節炎の痛みをやわらげる方法は以前より増えていて、関節炎の猫のための月1回の注射もあります。獣医師が愛猫の状態に合わせて選び、住まいの工夫と組み合わせて進めていきます。シニア猫が関節の痛みを我慢し続ける必要はありません。
ほかの痛みのサインは、猫の痛みの見分け方ガイドで紹介しています。
シニア猫で意識して検査したい病気
10歳を過ぎたら、特に気をつけたい病気が7つあります。慢性腎臓病、甲状腺機能亢進症、糖尿病、高血圧、心臓病、歯周病、腫瘍です。
慢性腎臓病(CKD) はシニア猫で最も多い診断のひとつで、10歳以上の約20〜50%、15歳以上ではさらに高い割合で見られます。初期の変化は小さく、水をよく飲んで尿が増える、体重が少しずつ減る、食欲が落ちる、といったものです。血液検査(クレアチニンとSDMA)と尿検査で診断し、どの段階か、これからどうケアするかは獣医師が説明してくれます。
甲状腺機能亢進症 は10歳以上の約10%にみられます。典型的なのは、よく食べるのに体重が落ちていき、落ち着きがなくなり、鳴き声が大きくなって要求が増える、という様子です。T4の血液検査で調べられます。
糖尿病 は太り気味の中高齢猫で多く見られます。多飲多尿はCKDと重なりますが、糖尿病の猫はよく食べ、トイレの尿の塊が大きくべたつくことがあります。確定には血液検査と尿検査が必要です。早めに見つかれば、寛解が期待できる猫も少なくありません。
高血圧 は猫の場合、ほかの病気(CKDや甲状腺機能亢進症が多い)に伴う「二次性」のことがほとんどです。最初の気づきが「網膜剥離による突然の失明」というケースもあります。臓器が傷む前に見つけるには、定期的に血圧を測ることが大切です。
心臓病 は、シニア猫では飼い主さんが思っている以上によくみられます。なかでも代表的なのが肥大型心筋症(HCM)で、10歳以上での有病率は約29%まで上がります。HCMの猫の多くは見た目には元気で、聴診だけでは気づけないことがよくあります。確実に調べるには心エコー検査が必要です。発症しやすい猫種(メインクーン、ラグドール、ブリティッシュショートヘア、ペルシャ、ベンガル、スフィンクス、ノルウェージャンフォレストキャット、バーマン)や、雑音・奔馬調律・失神のエピソードがある猫では、獣医師と相談しておく価値があります。
歯の病気 はシニア猫にとても多く見られます。歯周病(ししゅうびょう)、歯の吸収、口内炎は、どれも痛みをともないます。口臭、食事中にフードをこぼす、食べるのが遅くなる、片側だけで噛む、といった様子がサインです。
腫瘍(しゅよう) の発生率もシニアで上がります。リンパ腫、乳腺腫瘍(特に避妊していない雌)、扁平上皮癌(へんぺいじょうひがん)が代表的です。新しいしこり、原因不明の体重減少、長引く嘔吐や下痢があれば検査の対象になります。
これらの病気は症状がよく似ています。体重が落ちているシニア猫なら、腎臓病、甲状腺機能亢進症、歯の痛み、糖尿病、腫瘍、あるいは単に吸収が落ちているだけのこともあります。見た目だけでは区別できないので、定期的な血液検査が大切です。
通院の目安
ライフステージガイドラインでは、10歳以上の猫は少なくとも半年に1回の診察が勧められています。血液検査や尿検査などのひと通りの検査は最低でも年1回、できれば毎回受けるのが理想です。目安は次のとおりです。
| ライフステージ | 診察ペース | 推奨される検査 |
|---|---|---|
| 成熟期(7〜10歳) | 年1回 | 血球計算(CBC)、生化学、総T4、尿検査、血圧 |
| シニア(10歳以上) | 6か月に1回 | 同上、最低でも年1回、できれば毎回 |
| 慢性疾患のある猫 | 病態に応じて | 病態に応じて |
半年ごとは多く感じるかもしれませんが、シニア猫の検査値は思ったより早く変わります。腎臓のSDMAはクレアチニンより先に上がることがあり、甲状腺のT4は目に見えてやせる前に上がりはじめることがあります。高血圧は臓器が傷むまでほとんど症状が出ません。年1回の通院だと、ひとつ進んだ段階で見つかることも珍しくありません。
費用が気になる場合は、段階的なやり方を相談してみてください。生化学・T4・尿比重・血圧に絞った検査なら、ひと通りの検査よりずっと費用を抑えられ、よくある病気の多くを見つけられます。
ふだん家で記録しておきたいこと
診察でわかるのはその日の様子だけで、変化は家での毎日に積み重なっていきます。10歳以上の猫なら、次のことを続けて記録しておきましょう。
体重とボディコンディション。 月1回の体重測定で十分です。家庭用のキッチンスケールと小さな箱があれば、ほとんどの猫はそれで測れます。ただし、体重だけだと筋肉の減少を見逃します。猫は体重を維持しながら、筋肉が減って脂肪が増えることがあるからです。背骨や腰骨を手でなでてみて、以前より骨がごつごつ感じるなら、体重が変わっていなくても筋肉が落ちています。獣医師はボディコンディションスコア(BCS)と筋肉スコア(MCS)で評価しますが、家では変化に気づければ十分です。
飲水量。 正確な計測は難しいので、パターンの変化をとらえるほうが現実的です。水皿の減りが早い、補充の頻度が増えた、新しい場所で水を飲み始めた、といった変化を記録しておきます。
食欲。 食べ残す回数が増えた、食べきっていたフードが残るようになった、好きだったおやつに反応しなくなった、といった変化を記録します。急に好き嫌いが増えたときも注意しましょう。
トイレのパターン。 尿の塊が大きくなった、トイレの回数が増えた、外でしてしまう、いきんでいるのに量が出ない。どれも獣医師に伝える価値があります。
動きの変化。 ジャンプ前のためらい、階段が遅くなった、新しく好む休憩場所。気づいたときに記録します。「最近ベッドに飛び乗らなくなった気がする」というあいまいな印象より、日付つきのメモのほうがはるかに役に立ちます。
こうした記録はFurwiseにまとめられます。体重はグラフで確認でき、飲水・トイレ・薬の記録、写真つきのメモも残せて、家族といっしょに記録することもできます。受診のときに開けば、これまでの経過をそのまま見せられます。
住まいの工夫
ちょっとした工夫でも、シニア猫には大きな助けになります。愛猫がまだやりたいことを続けられるよう、途中のじゃまを取り除いてあげましょう。
トイレ。 12歳以上の猫や、少し体が硬くなってきた猫には、入り口の段差が低いタイプに替えてあげてください。縁の高いタイプや上から入るタイプは、関節が痛い猫がトイレを使わなくなる原因の代表格です。数も増やします。「猫の数+1個」が基本ですが、シニア猫の場合は各フロアや主な生活エリアごとに置くのが理想です。
生活に必要なものは各フロアに。 以前は1日に20回階段を上り下りしていた猫が、3回しか動かなくなることがあります。各階に水・フード・トイレを置けば、そのために移動しなくてすみます。移動を控えるうちに、水分不足やトイレの失敗、体重減少につながることがあります。
スロープ・ステップ・滑り止め。 お気に入りの窓辺やソファに小さなスロープやステップを置くと、ずいぶん違います。フードや水のまわりのフローリングやタイルに滑り止めマットを敷くのも効果的です。床が滑ると、シニア猫はその部屋に行かなくなることがあります。
保温。 高齢の猫は寒さが苦手です。低温のペット用ヒーターや、すきま風の入らない場所に置いた厚めの低反発ベッドは、よく使ってくれます。
照明。 視力が落ちてきた猫は、フード・水・トイレへの動線にいくつか足元灯を置いてあげると、動きやすくなります。家全体を明るくする必要はなく、角や段差を避けられる程度のヒントがあれば十分です。
爪。 シニア猫は爪とぎが減り、古い爪のさやが抜けにくくなります。爪が厚くなり、伸びすぎて肉球に食い込み、感染を起こすこともあります。月に1回、4本の足すべてと狼爪(ろうそう)までチェックして、必要なら自分で切るか動物病院で切ってもらいましょう。
静けさ。 高齢の猫は騒がしさが苦手になります。決まった時間の食事、隠れられる静かな部屋、じゃまされない睡眠は、若いころよりずっと大切になります。
シニア猫の食事
シニア猫に合う食事は、猫によって違います。パッケージを見るとどのシニア猫にも合う「シニア用フード」があるように思えますが、実際にはありません。
ただ、多くの猫に当てはまる原則はあります。ひとつは水分です。シニア猫は病気になると脱水しやすいので、ウェットフード、給水器、水飲み場を増やすことが役立ちます。もうひとつは、質のよいタンパク質を十分にとることです。シニア猫は筋肉が落ちやすいからです。タンパク質を制限する食事は、特定の病気、多くは進行した腎臓病の猫のためのものです。健康なシニア猫がタンパク質を減らすと、筋肉が落ちやすくなるだけです。
シニア猫の一部、特に12歳以上で体重が落ちつつある猫では、脂肪やタンパク質の消化吸収機能が下がっていることがあります。こうした猫には、カロリーが高く消化のよいフードが必要になります。一方、シニアになっても太りやすい猫もいて、その場合は量の調整が大切です。愛猫に合う食事は、いまやせてきているのか、太ってきているのかで変わります。
体重が落ちているときは、フードを変える前に、まず血液検査を受けましょう。体重減少にはたいてい原因があり、食事の見直しは検査の結果を見てからです。
「生活の質」について話し始めるタイミング
慢性の病気が見つかったあとなど、ある時期から、大切なことが「どう治すか」から「どう快適に過ごしてもらうか」へと少しずつ移っていきます。多くの飼い主さんは、それに少しずつ気づきます。食べるのがつらそうになる、毛づくろいをしなくなる、隠れてばかりいる、これまで効いていた治療が愛猫にも飼い主さんにも負担になってくる、といった変化です。
そのときは、獣医師に生活の質(QOL)について相談してみましょう。簡単なチェックリストを使えば、「前より元気がない気がする」という感覚を、具体的に話し合える形にできます。動物病院によっては、終末期ケアの相談や往診にも対応しています。一度に決める必要はありません。そうした選択肢があると知っておくだけでも十分です。
よくある質問
猫は何歳からシニアと呼ばれますか? 2021年の猫のライフステージガイドラインでは、10歳以上がシニアです。以前は15歳以上を「高齢期」として分けていましたが、いまはシニアにまとめられ、年齢が上がるほど検査の間隔を短くします。7〜10歳は「成熟期」で、あとで比べられるよう、ひと通りの検査を一度受けておくとよい時期です。
シニア猫はどれくらいの頻度で動物病院に行くべきですか? 10歳以上は最低でも半年に1回です。血球計算(CBC)、生化学、総T4、尿検査、血圧のひと通りの検査は、最低でも年1回、できれば毎回受けましょう。半年ごとに通院すると、腎臓病、甲状腺機能亢進症、糖尿病、高血圧を、年1回よりひとつ早い段階で見つけやすくなります。
シニア猫に関節の痛みがあるか、どう見分けたらいいですか? 猫は犬のようにはっきり足を引きずることが少ないので、ふだんの様子の変化を見ます。ジャンプ前にためらう、階段がゆっくりになる、腰やしっぽの付け根の毛が整っていない、低い場所で寝るようになる、腰まわりを触ると嫌がる、トイレの外でしてしまう、などです。12歳以上の猫の約9割には、レントゲンで関節の変化が見られます。こうした様子があれば獣医師に相談しましょう。痛みをやわらげる方法は以前より増えています。
シニア猫がよく食べているのに体重が落ちるのはなぜですか? 食欲はふつう、あるいは増えているのに体重が落ちる病気がいくつかあります。代表的なのは甲状腺機能亢進症で、糖尿病でも同じことが起こります。年齢による吸収の低下、口の痛みで食べる量が減っている、腸の病気、初期の腎臓病なども考えられます。まずは血液検査と尿検査を受け、結果が出るまではフードを変えないようにしましょう。
半年に1回は動物病院で検査を受け、ふだんから小さな変化に目を配り、家の中の不便なところを直し、気になることがあれば獣医師に相談しましょう。多くのシニア猫には、まだ何年もの穏やかな時間があります。その時間を、少しでも快適に過ごしてもらいましょう。
References
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