去勢・避妊手術は、猫を迎えてから飼い主さんが向き合う最初の大きな決断のひとつです。いつ受けさせるのがよいか、手術は安全か、術後はどう過ごせばよいか、と多くの飼い主さんが同じような疑問を抱えています。どちらも繁殖を防ぐための手術で、メス猫は生殖器を取り除く避妊手術(ひにんしゅじゅつ)、オス猫は精巣(せいそう)を取り除く去勢手術(きょせいしゅじゅつ)と呼ばれます。どちらも全身麻酔(ぜんしんますい)のもとで行われます。
去勢・避妊手術をするメリット
メス猫にとって、いちばん大きなメリットは、がんの予防です。初めての発情(はつじょう)を迎える前に避妊手術を受けておくと、生涯にわたる乳腺腫瘍(にゅうせんしゅよう)のリスクを大きく下げられます。乳腺腫瘍は猫に多いがんのひとつで、その大半が悪性です。この予防効果は早く手術するほど強く、発情をくり返すごとに弱まっていきます。
避妊手術はまた、子宮に膿(うみ)がたまり急速に命にかかわることもある感染症、子宮蓄膿症(しきゅうちくのうしょう)が起こる可能性をなくし、子宮や卵巣のそのほかの病気も防ぎます。
日常の面では、避妊手術によって発情期が終わります。避妊していないメス猫は、数週間ごとに、落ち着きなく鳴き続けたり、歩き回ったり、床に転がったりする発情行動をくり返しますが、それがなくなります。
メス猫に一度出産を経験させることに、健康上のメリットはありません。
オス猫にとって、去勢手術は精巣の病気のリスクをなくし、オスホルモン(テストステロン)の影響による行動を落ち着かせます。去勢していないオス猫は、遠くまで出歩いたり、ほかの猫とけんかをしたり、においの強い尿でスプレー(マーキング)をしたりします。けんかはけがの原因になり、猫免疫不全ウイルス(FIV)や猫白血病ウイルス(FeLV)も咬み傷からうつります。外へ出たがる気持ちやけんかが減れば、こうしたリスクも下がります。
完全室内飼いの猫も、手術のメリットは変わりません。子宮蓄膿症や乳腺腫瘍は外に出るかどうかに関係なく起こり、スプレーや鳴き声も家の中で起こる問題です。発情中のメス猫は、玄関のすき間から外へ出ようとすることもよくあります。
手術に適した時期
海外の獣医師団体などでは、多くの飼い主さんが思うより早く、生後5か月までの手術がすすめられています。猫は生後4〜5か月ごろには性成熟(せいせいじゅく)に達することがあり、メス猫は妊娠が可能になります。そのため、その時期を大きく過ぎるまで待つと、手術の予約をする前に思いがけず子猫が生まれてしまうこともあります。
この時期の手術は、回復もスムーズです。子猫は成猫より回復が早いことが多く、若い時期の去勢・避妊手術についての研究でも、重い合併症(がっぺいしょう)が増えるという結果は出ていません。ただし、子猫自身が健康で、体重がおおむね1kg以上あることが前提です。日本の動物病院では、これより少しあとの時期をすすめられることもあります。獣医師が、愛猫一頭ずつの健康状態や体格、発育を見たうえで、適した日を決めてくれます。子猫を迎えるときのガイドで紹介している最初のころのケアと一緒に、予定を立てておきましょう。
来歴のわからない成猫を引き取った場合も、手術は受けられます。去勢・避妊手術は何歳でもでき、すでに手術ずみかどうかは獣医師が確認してくれます。これは迎え入れたばかりの成猫が新しい環境に慣れていくうえでの、ふつうの手順のひとつです。
高齢猫の去勢・避妊手術
年齢を重ねた猫も去勢・避妊手術を受けられますが、手術までの準備は少していねいになります。麻酔の進め方に影響する問題がないか確認するため、先に血液検査をすすめられるのが一般的です。若い猫に比べると回復に時間がかかり、術後の痛みも出やすい傾向があります。成猫やシニア猫では休む日数を多めにとり、痛みのケアにもいっそう気を配ってあげてください。手術の週は、飼い主さんが様子を見られる予定にしておきましょう。
手術当日の流れ
手術日の前に、獣医師が愛猫にどれくらいの術前検査が必要かを判断します。若くて健康な子猫なら、身体検査だけで十分なこともあります。年齢を重ねた猫や、何か健康上の心配がある猫の場合は、麻酔をかけても安全かを確認するために、先に血液検査をすすめられることがあります。
絶食の時間は猫の年齢や動物病院の方針によって変わるので、自己判断はせず、かかりつけの獣医師から伝えられた時間を守りましょう。
手術は全身麻酔のもとで行われます。避妊手術ではおもにお腹に小さな切開を加え、手術そのものは15〜20分ほどですむことが多いです。去勢手術はさらに短く、陰嚢(いんのう)に2か所ごく小さな切開を入れて行います。
愛猫は動物病院で1日の大半を過ごし、麻酔がさめて状態が落ち着いてから帰宅します。ほとんどの猫はその日のうちに帰れますが、メス猫では1泊入院とする病院もあります。まだマイクロチップが入っていない場合は、同じ麻酔のあいだに入れることもでき、猫に痛みもありません。
回復期間と自宅での術後ケア
手術当日の夜は、ぼんやりして足元もふらつき、食欲もあまりありません。帰宅後は、獣医師から特に指示がなければ、いつもの半分ほどの量を与えてみましょう。残しても心配はいりません。翌日には、ほとんどの猫が食べたり動いたりして、いつもの様子に近づきます。手術から丸1日たってもぐったりして眠ってばかりいる場合は、動物病院に連絡しましょう。
傷が治るまでには、愛猫の元気が戻るよりも長くかかります。運動の制限はオス猫でおよそ1週間から10日、メス猫で1〜2週間ほどが目安です。獣医師からもっと長く指示された場合はそれに従いましょう。皮膚に縫合糸(ほうごうし)がある場合は、手術から1〜2週間ほどで、動物病院が指定する日に抜糸(ばっし)します。
回復期にいちばん気をつけたいのは、愛猫が切開創(せっかいそう)をなめたり噛んだりしないようにすることです。猫の舌はざらざらしていて、傷をなめ続けてしまうことが、治りが悪くなるいちばん多い原因です。エリザベスカラーはかわいそうに見えるかもしれませんが、愛猫の傷口が開いてしまうのを防ぐための大切な備えです。避妊手術のあとなら、やわらかい術後服も選択肢になり、こちらのほうが受け入れやすい猫も多くいます。オス猫の傷は陰嚢にあり、術後服では覆えないため、エリザベスカラーが必要です。どちらを使う場合も、獣医師にすすめられた期間はしっかり着けておきましょう。
傷口は1日に2回チェックします。閉じた細い線で、少しピンクがかっている程度なら、順調に治っているしるしです。赤みや腫れが強くなったり、分泌物が増えたりする場合は、異常のサインです。傷口は乾いた状態に保つ必要があるため、回復期は入浴をさせず、ジャンプや高い場所への移動、激しい遊びも控えて、落ち着いて過ごさせましょう。
見落とされやすい小さなポイントが、猫砂です。回復期は、粉の出ない猫砂や紙製の猫砂に切り替え、細かい砂や粉が治りかけの傷に入り込まないようにします。獣医師が鎮痛剤(ちんつうざい)を処方してくれた場合は、指示どおりに与えてください。アセトアミノフェンやイブプロフェンなど、人間用の鎮痛剤は絶対に与えないでください。1錠でも猫の命にかかわることがあります。
オス猫の術後ケア
陰嚢の小さな切開を縫うかどうかは病院の方針によって異なり、欧米の保護施設などでは縫わずに自然に閉じるのを待つ方法がよく使われます。私が勤務する動物病院では、オス猫の傷も縫合します。エリザベスカラーを着けて帰宅し、10日ほどたったら抜糸に来院してもらいます。
最初の数日は陰嚢が腫れて、精巣が残っているように見えることもあります。軽い腫れなら心配はなく、少しずつ引いていきます。切開した場所は猫砂に座るとちょうど触れる位置なので、猫砂の切り替えはオス猫で特に大切です。多くのオス猫は1〜2日でいつもの様子に戻りますが、傷はまだ治りかけなので、ジャンプや激しい遊びはしばらく控えさせましょう。
メス猫の術後ケア
避妊手術は開腹手術(かいふくしゅじゅつ)です。切開はお腹、ときには脇腹に入れ、皮膚の下を吸収糸(きゅうしゅうし)で縫うのが一般的で、その上から皮膚を縫うこともあります。傷のまわりは毛を剃ってあります。腹壁(ふくへき)を切開するため、メス猫は静かに過ごす期間が長めに必要です。1〜2週間ほどは高い家具へのジャンプや上り下り、激しい遊びを控えさせましょう。
回復期に動物病院へ連絡すべきとき
- 傷口が開いた、すき間がある、分泌物や出血がある
- 傷口が強く赤く腫れている、熱を持っている
- 初日を過ぎても元気がない
- 丸1日以上食べない
- 吐く、排尿や排便でいきむ
- 処方された鎮痛剤を飲んでも痛そうにしている
手術のリスクと合併症
去勢・避妊手術は、獣医療でもっともよく行われる手術のひとつで、一般的にはとても安全です。ただし、麻酔をかけて行う手術であることに変わりはありません。起こりうる合併症は、どの手術にもあるものと同じで、まれな麻酔への反応、少量の出血、傷口の感染、腫れ、縫合糸への反応などです。現在は麻酔中のモニタリングが進み、深刻な問題はまれです。術前の検査と術後のケアをきちんと行えば、リスクはさらに下がります。
手術後の行動と体重の変化
手術で愛猫の性格が変わってしまうのではないか、と心配する飼い主さんは少なくありません。実際に変わるのは、ホルモンによって引き起こされる行動です。去勢・避妊をした猫は、出歩きやけんか、スプレーが減り、メス猫では発情期の鳴き声がなくなります。手術のあと、以前より穏やかで甘えん坊になったと感じる飼い主さんも多くいます。遊び好きなところや好奇心、おしゃべりな性質は生まれ持った気質なので、そのまま残ります。
はっきり変わるのは代謝です。去勢・避妊のあと、猫が必要とするエネルギー量は下がり、一方で食欲は増すことがよくあります。手術前と同じ量を与え続けていると、少しずつ体重が増えてしまうことがあります。
必要量が変わるので、ごはんの与え方も合わせて変えましょう。手術のあとは量を少し減らすか、去勢・避妊した猫向けのフードに切り替え、太ってから気づくのではなく定期的に体重や体型をチェックし、毎日の遊びを生活に組み込んでおきましょう。猫の体重管理ガイドでは、愛猫が食事のたびに物足りなさを感じずにすむやり方を解説しています。
Furwise でできること
術後は、決まった時間の投薬と抜糸の再診があります。Furwiseでは投薬と通院のリマインダーを設定でき、家族で世話を分担していても同じ記録を見られます。その後も体重を記録しておけば、去勢・避妊後にじわじわ増える体重に、ごはんの量を少し調整するだけですむうちに気づけます。
よくある質問
猫の去勢・避妊手術は、何歳ごろに受けるのがよいですか? 性成熟や初めての発情の前、生後5か月ごろまでの手術がすすめられています。猫は生後4〜5か月ごろには妊娠が可能になるためです。日本の動物病院では、これより少しあとの時期をすすめられることもあります。生後5か月はひとつの目安とし、愛猫に合った日は獣医師に確認しましょう。これまで手術をしていない成猫の場合も、何歳でも受けられます。
高齢の猫でも去勢・避妊手術を受けられますか? 年齢の上限はなく、健康状態に問題がなければ成猫やシニア猫でも受けられます。獣医師がまず全身の健康状態を見て判断し、麻酔の前に血液検査をすすめるのが一般的です。若い猫より回復に時間がかかり、術後の痛みも出やすいため、休む期間を長めにとり、痛みのケアは獣医師の指示どおりに続けましょう。
猫が去勢・避妊手術から回復するまで、どのくらいかかりますか? 手術当日の夜はぼんやりしていても、翌日には食べたり動いたりできる猫がほとんどですが、傷が治るまでにはもっと時間がかかります。運動の制限はオス猫で1週間から10日ほど、お腹の壁を切開するメス猫では1〜2週間ほどが目安です。皮膚に縫合糸がある場合は、1〜2週間ほどで抜糸するのが一般的です。獣医師から問題ないと言われるまで、エリザベスカラー(メス猫なら術後服も可)を着け、ジャンプや激しい遊びを控えさせ、傷口を1日2回チェックしましょう。
去勢・避妊手術で猫の性格は変わりますか? 歩き回る、けんかをする、スプレーをする、メス猫では発情期に鳴く、といったホルモンによって引き起こされる行動はなくなり、多くの猫は以前より穏やかで甘えん坊になります。遊び好きなところや好奇心など、生まれ持った気質は変わりません。
去勢・避妊手術をすると猫は太りますか? 去勢・避妊が直接猫を太らせるわけではありませんが、必要なエネルギー量が下がり、食欲も増えやすくなるため、手術後にごはんを調整しないと体重が増えることはよくあります。これは予防できます。手術後は量を少し減らすか去勢・避妊した猫向けのフードに切り替え、体重と体型を定期的に確認し、毎日の遊びを続けましょう。
完全室内飼いの猫にも去勢・避妊手術は必要ですか? 必要です。メス猫の乳腺腫瘍や子宮蓄膿症、オス猫の精巣の病気を防ぐといった健康上のメリットは、猫が外に出るかどうかに関係なくあてはまります。室内猫も飼い主さんが思う以上に外へ出てしまうことがあり、発情中のメス猫は特にそうです。スプレーや鳴き声も、室内で起こる問題です。
手術後、猫に人間用の鎮痛剤を与えてもよいですか? 与えないでください。アセトアミノフェンやイブプロフェンなど人間用の鎮痛剤は、1錠でも猫の命にかかわることがあります。手術後に愛猫がつらそうなときは、獣医師が処方した鎮痛剤だけを使い、それでも足りないようなら動物病院に電話してください。
参考文献
- Cornell Feline Health Center. Spaying and Neutering. Cornell University
- Cornell Feline Health Center. Mammary Tumors. Cornell University
- American Animal Hospital Association. The “Fix by Five” Initiative. AAHA Trends
- International Cat Care. Neutering Your Cat. iCatCare
- International Cat Care. Why Do I Need to Neuter My Cat? iCatCare
- ASPCA Spay/Neuter Alliance. After Surgery: How to Care for Your Pet. ASPCA
- Fettman, M. J., Stanton, C. A., Banks, L. L., et al. (1997). Effects of neutering on bodyweight, metabolic rate and glucose tolerance of domestic cats. Research in Veterinary Science, 62(2), 131-136. PubMed