保護猫を迎えた最初の1か月は、「やること」より「やらないこと」のほうが多い時期です。小さな部屋を整え、キャリーを置いたら、あとは「もう十分かな」と思ってからもう少し待ちます。この家は安全だと、愛猫が自分のペースで確かめていく時間です。早く歓迎していると伝えたくなりますが、飼い主さんが静かで予測しやすいほど、愛猫は早く自分から出てきてくれます。
なぜ最初の1か月がいちばん大変なのか
猫はにおいで道を覚え、なわばりを安心のよりどころにしています。新しい家に来ると、慣れたにおいも音も、通り道も人も、いっぺんになくなります。落ち着きを取り戻すには時間がかかります。
新しい環境に来た猫は、隠れる、固まる、食べる量が減るといった形でストレスを見せ、その程度には個体差があります。これは保護猫に限りません。健康な家猫でも、生活のリズムや主にお世話をする人が変わると、食欲が落ちる、吐く、トイレ以外で排泄する、隠れるなど、まるで体調を崩したような様子を見せます。ですから、お迎え初日にほとんど食べない、3日ほど姿を見せない、最初の1週間にトイレの外で一度おしっこをしてしまう、といったことは、たいてい普通の範囲です。
愛猫に必要なのは、時間と、自分で把握できる空間です。16週未満の子猫を迎える場合はお世話の内容がかなり違うので、子猫のお迎えガイドを参考にしてください。
お迎えする前にやっておくこと
静かで、知らないにおいの少ない部屋を用意しておくと、愛猫は来たその日から落ち着きやすくなります。
必要なもの
ペットショップで一通り買いそろえる必要はありません。慣れない場所で愛猫が「ここは大丈夫そう」と思えるものが、いくつかあれば十分です。
| アイテム | なぜ大切か |
|---|---|
| 猫トイレ + 保護施設で使っていたのと同じ猫砂 | 初日に砂まで変わると、知らないものがひとつ増えてしまいます。最初はそろえましょう。 |
| キャットフード(保護施設で与えていたのと同じ銘柄・同じ味) | ストレスに急なフードの切り替えが重なると、お腹をこわしやすくなります。慣れたものを続けましょう。 |
| 水のお皿(広く浅く、フードから離して置く) | 猫は水とごはんが隣り合っているのを嫌がることが多く、新しい場所では水を飲みしぶることもあります。 |
| やわらかい、囲われた隠れ場所 | 屋根付きのベッド、穴を開けた段ボール箱、扉を外したキャリーなど、どれでもかまいません。 |
| 爪とぎ(できれば高さがあり、しっかりしたもの) | 爪とぎはにおいをつける行動でもあります。自分のなわばりに印をつけられる猫は、早く落ち着きます。 |
| キャリー | お迎えに使ったものを、最初の1週間は扉を開けたまま部屋に置いておくと、隠れ場所のひとつになります。 |
おもちゃは、初日にはまだいりません。愛猫がキャリーから出て、部屋を探索し始めてからで十分です。出てこない子に猫じゃらしを振っても、落ち着かなくさせるだけです。
専用ルームの作り方
扉が閉まる小さな部屋を選びます。空いている寝室や書斎など、家でいちばん広い部屋より小さい部屋が向いています。狭い部屋は囲まれている安心感があり、ひと晩でにおいを覚えて落ち着きやすくなります。広いリビングは把握しにくく、手の届かないすき間にも入り込まれがちです。
必要なものはすべてこの部屋に入れます。トイレは部屋の片隅、フードと水は反対側に、隠れ場所は扉が見えるけれど扉からは丸見えにならない位置に置きましょう。隠れ場所を少し高くできるなら、低めの棚にベッドを置くだけでも、多くの猫は安心します。照明は落とし、カーテンは半分ほど閉めておきます。お迎え前に、愛猫が入り込めて飼い主さんの手が届かないすき間(チェストの裏、ベッドの下、作り付け収納の下など)がないか確認し、ふさいでおきましょう。
保護猫を迎える前の、家の中の安全チェック
来たばかりの保護猫は隠れる場所を探していて、入ってほしくない場所ほど見つけてしまいます。一般的な安全対策だけでは足りません。お迎え前に、専用ルームと家全体を、次のリストを見ながら確認しましょう。
- 線状のもの全般:紐、リボン、糸、輪ゴム、ヘアゴム、デンタルフロス、ブラインドの紐。とにかく長くて細いものすべてです。私が勤めている動物病院でも、こうした細くて紐状のものを飲み込んでしまった猫が、ほぼ毎週のように運ばれてきます。重症の場合は手術で取り出すことになる、本当の緊急事態です。こうしたものは、すべて愛猫の手が届かない場所にしまっておきましょう。
- リクライニングソファー、収納式のソファーベッド:怖がっている猫は機構の中に入り込むことがあり、気づかずに戻すと挟まれてしまいます。専用ルームには置かず、最初の1週間は、どの部屋のものでも、動かす前に中に愛猫がいないか手で確かめましょう。
- 洗濯機と乾燥機:暖かく暗い、囲まれた空間は、隠れたい猫が探している場所そのものです。扉は閉めておき、乾燥機を回す前は毎回ドラムの中をのぞいてください。
- 網戸:お迎え前に、家中の網戸を手で押して確かめておきます。驚いた猫がゆるい網戸に飛びつくと、そのまま突き破って外に出てしまいます。猫の高い所からの転落は珍しくなく、大けがになることも多いです。
- キッチン、火(キャンドル、お香):コンロや刃物、熱い鍋など、キッチンには危ないものが多くあります。できれば猫をキッチンに入れないのがいちばんです。難しい場合は、コンロの上に物を置かず、つけられるならカバーをつけましょう。キャンドルやお香も、猫が入れる部屋では使わないでください。
- 有害な植物や食べ物:猫にとって有害な植物や食べ物は、愛猫が届くカウンターや棚から片づけましょう。ユリは猫に重い腎不全を起こすので、家の中から出してしまうのが基本です。
マイクロチップ情報の確認
日本では猫の室内飼いがすすめられていますが、来たばかりの猫はとても驚きやすく、最初の1週間にドアの閉め忘れや網戸のすき間があると、一気に飛び出してしまうことがあります。まだ新しい家を知らないので自分では帰ってこられず、迷子になった猫は犬より見つかりにくいといわれます。万が一のとき、帰ってこられるかどうかはマイクロチップが大きな鍵になります。
2022年6月から、ブリーダーやペットショップなどの販売業者には、犬猫へのマイクロチップの装着と情報登録が義務づけられました。チップの入った猫を譲り受けた飼い主さんは、30日以内に環境省のデータベースで変更登録をする必要があります。譲渡のときに登録証明書を受け取り、お迎え後すぐに手続きしましょう。チップが入っていない場合は、初回の受診で装着を相談できます。
お迎え当日
キャリーを専用ルームに置き、扉を開けたら、飼い主さんは部屋を出ます。手を入れたり、キャリーを傾けて出したりはしないでください。20分で出てくる子もいれば、夜中の3時に出てくる子もいます。どちらでもかまいません。
初日は、仲良くなろうとするより、邪魔をしないことを心がけましょう。家の中は静かにして、強い香水や、においの強い料理は控えます。最初の数時間、愛猫は鼻を頼りにこの家を知っていきます。
保護施設から持ち帰ったベッドやタオルは部屋に置いておき、すぐには洗わないでください。慣れたにおいがあると、愛猫は落ち着きやすくなります。飼い主さんが着たTシャツを、部屋にいない時間に置いておくのもおすすめです。そばにいなくても、少しずつ飼い主さんのにおいに慣れていけます。
最初の1週間:愛猫のペースで進める
想定しておくこと
おそらく隠れますし、それが何日も続くこともあります。食べる量が減り、最初の12〜24時間はまったく食べないこともあります。トイレもためらいがちで、冷蔵庫の音や上の階の足音、ドアの閉まる音など、ふだんの生活音にも驚きます。どれもストレスを受けた猫の自然な反応で、多くの猫は環境に慣れるにつれて少しずつ落ち着いていきます。
落ち着くまでの速さは、猫によって違います。大胆な子なら、2日目にはキャリーから出てきて足に体をすりつけてくるかもしれません。慎重な子は、最初の1週間のほとんどをチェストの後ろで過ごすこともあります。どちらも普通です。慎重な子には慎重な子のペースがあり、急かすほどかえってうまくいかなくなります。
やること(とやらないこと)
専用ルームの床に座って、本でも読みながら過ごしましょう。愛猫と目線の高さを合わせて、わざと気にしていないふりをします。気が向けば小さな声で本を読んでみてください。飼い主さんの声に、少しずつ慣れていきます。部屋を出る前に、においの強いおやつをいくつか隠れ場所の近くに置いておきましょう。
愛猫が近づいてこなければ、こちらからも近づきません。近寄って手のにおいを嗅いだら、そのまま嗅がせてあげてください。ただし、近づいてきたからといってすぐに抱き上げないこと。主導権を愛猫に渡すと、かえって早く警戒を解いてくれます。
飼い主さんの行動も、環境の一部です。声は低めに、動作はゆっくりに、部屋に出入りする時間もだいたい同じにしましょう。毎日同じ調子で淡々と過ごす人のそばだと、猫は早く落ち着きます。愛猫がドア枠や家具の角、飼い主さんの足首に頬をすりつけ始めたら、自分のにおいをつけて、この部屋を自分のなわばりにし始めている合図です。
毛が薄くなるほどなめ続ける、まったく動かず固まっている、声をまったく出さないといった様子はストレスのサインです。いつもより気をつけて様子を見てあげましょう。
24時間以上まったく食べない、または水を飲まない、トイレで力んでも尿が出ない、呼吸が苦しそうといったときは、すぐに動物病院に連絡してください。
「3-3-3 ルール」について
保護施設のウェブサイトや譲渡ページでよく見かける言い方で、3日でリラックスし始め、3週間で落ち着き始め、3か月でわが家と思えるようになる、というものです。大まかな目安として覚えやすいのですが、実際のペースは猫によってかなり違い、慎重な子は3か月たってもまだ慣れている途中で、それ以上かかることもあります。3日でリラックスしない猫も、たいていはもう少し時間が必要なだけです。
よい方向に進んでいるかどうかは、行動に表れます。ごはんを食べている、トイレを使えている、飼い主さんがいない時間に部屋を探索している、ドアのそばに来て外の様子を気にしている、といった変化です。
なかなか前に進まないときは
専用ルームに来て3週間ほどたっても、次のような様子が見られるなら、様子見を続けるより相談したほうがよい段階です。
- 食べる量がずっと少なく、体重が減っている
- 一瞬驚いたときだけでなく、長い時間、体を低くして固まったままでいる
- 触られたわけでもないのに、飼い主さんが部屋に入っただけで前足で叩こうとしたり、噛もうとしたりする
- トイレ以外ではほとんど動かず、一日中同じ場所にいる
- グルーミングをしなくなり、毛並みが乱れてきている
- 飼い主さんがいない時間にも、まだ部屋を探索していない(部屋を出て、外で静かに耳をすませてみるとわかります)
当てはまる場合は、まず保護施設や保護団体に相談してみてください。こうした様子はよく見てきているので、猫の行動診療を扱う獣医師を紹介してくれたり、別の環境を試せるよう手配してくれたりすることもあります。あわせて、動物病院でも診てもらいましょう。
この時期に、関わりを増やそうとするのは逆効果です。触れる時間を長くしたり、無理に部屋から連れ出したりすると、たいてい状況は悪くなります。大切なのは、愛猫が安心できることです。落ち着いたあと、怖がりな猫に少しずつ心を開いてもらう接し方は、怖がりな猫に信頼してもらうにはで解説しています。
ドアを開けていく
専用ルームで十分にくつろげるようになったら、少しずつ家のほかの場所にも慣れてもらいます。日数ではなく、愛猫の様子で判断しましょう。ほとんどの日にごはんを食べ、トイレも問題なく使えていて、部屋に入ると隠れ場所から出てくる。そんな日が数日続いたら、家の中が静かな時間を選んでドアを少しだけ開け、出るかどうかは愛猫に任せます。抱いて連れ出したり、戻る道をふさいだりしないでください。
最初の探索は、たいてい短時間です。廊下に顔を出して数メートル歩き、知らない音がすると飛んで戻ってきます。それで大丈夫です。数週間かけて、行動範囲は少しずつ広がっていきます。そのあいだも専用ルームは扉を開けたまま、用品もそのままにして、いつでも戻れるようにしておきましょう。
家族との顔合わせ
家族と会うときも、専用ルームと同じです。床に座り、こちらから撫でようとせず、愛猫のほうから来てもらいましょう。何人もで一度に囲まないでください。お子さんがいるご家庭では、抱き上げない、追いかけない、離れていこうとしたら後を追わない、ということをしっかり伝えておきましょう。
先住の犬や猫がいる場合は、数週間かけてゆっくり会わせます。まず部屋を分けてにおいだけを交換し、次にゲートや少し開けたドア越しに姿を見せ、そのあとで人が見守るなかの短い同席に進みます。詳しい流れは多頭飼いの段階的な対面法にまとめています。「新しい子はもう大丈夫そう」と急いでしまうのは、多頭飼いのトラブルが長引く、よくある原因です。
最初の動物病院
お迎えから1週間以内に一度受診するのが一般的ですが、早く連れていくかどうかは愛猫の様子しだいです。数日で落ち着いて、近づかせてくれるようなら、1週目の受診で問題ありません。譲渡契約書も確認しておきましょう。団体によっては、受診や避妊・去勢の時期が条件になっていることがあります。
まだ怖がって一日中隠れている子を、急ぎではない健診のためにキャリーに押し込むと、少しずつ築いてきた信頼が振り出しに戻ってしまうことがあります。その場合は無理をせず、動物病院に電話して様子を伝え、ごはんとトイレが安定してからでもよいか相談してみましょう。多くは2〜3週目になります。
受診では、健康診断や便検査、まだ済んでいないワクチンの計画に加えて、避妊・去勢手術がまだなら、その時期も相談できます。保護施設から渡された医療記録は、忘れずに持っていきましょう。
こんなときはすぐ動物病院へ
- 24時間以上、まったく食べない、または水を飲まない
- 便や尿に血が混じっている
- トイレで力んでも尿が出ていない(オス猫の尿道閉塞は命に関わる緊急事態です)
- 呼吸が明らかに苦しそう
- 紐やリボン、糸など、細長いものを飲み込んだかもしれない(平気そうに見えても、すぐに連絡してください)
夜間や休日は、夜間救急の動物病院を利用しましょう。
数週間たつと
そのうち愛猫は、自分のペースでリビングを横切り、いつの間にか気に入った窓辺に座るようになります。横を通るときにしっぽで足に軽く触れたり、フードの袋の音を聞いて出てきたりもするでしょう。
よくある質問
保護猫がずっと隠れています。どのくらいまでなら普通ですか? 猫によって違います。大胆な子は1〜2日で出てくることもあり、慎重な子は最初の1週間のほとんどを隠れて過ごすこともあります。どちらも普通です。見ておきたいのは、ごはんを食べているか、トイレを使えているか、飼い主さんが部屋に入ると出てくるか、いない時間に部屋を探索しているかです。3週間ほどたっても隠れたまま、またはそれより早くても、ほとんど食べない、固まったまま動かない、近づくと前足で叩こうとするといった様子があれば、保護団体に相談し、動物病院でも診てもらいましょう。
保護猫にシャーッと威嚇されます。嫌われているのでしょうか? 威嚇は「近づかないで」という合図で、たいていは怖さからきています。言葉どおりに受け取って、近づくのをやめ、低い姿勢で少し離れて座り、近づくかどうかは愛猫に任せましょう。合図を尊重してもらえるとわかると、多くの猫は少しずつ威嚇しなくなり、その後も人と落ち着いて過ごせるようになります。
保護猫を先住猫や犬に会わせるには、どうすればよいですか? ゆっくり進め、初日にいきなり対面させないでください。少なくとも最初の1週間は部屋を分け、寝床を交換してお互いのにおいに慣れさせます。次にベビーゲートや少し開けたドア越しに姿を見せ、そのあとで人が見守るなかの短い同席に進みます。新入りの猫がいつでも自分の部屋に戻れるようにしておきましょう。詳しい流れは多頭飼いの段階的な対面法にまとめています。
保護猫とすぐに一緒に寝てもいいですか? 最初の1週間は専用ルームで過ごしてもらいましょう。家の中を自由に歩けるようになってから、愛猫が自分からベッドに来るなら一緒に寝てかまいません。ただし抱いて連れていくのはやめましょう。自分から来た猫はその後も来てくれることが多い一方、連れていかれた猫はすぐ飛び降りて、寝室を避けるようになることもあります。
お迎え初日に保護猫がごはんを食べません。大丈夫ですか? お迎えから12〜24時間ほどは、あまり食べなくてもよくあることです。保護施設と同じフードを続けると食べやすくなります。24時間以上まったく食べない、または水を飲まない、あるいは呼吸が苦しそう、便や尿に血が混じるといった様子があれば、動物病院に連絡してください。何日も食べない状態が続くと、脂肪肝のリスクがあります。
保護猫をすぐに家全体に出してもいいですか? まだ早いです。静かな小さい部屋のほうが、愛猫は自分で把握できる範囲で落ち着いていけます。いきなり家全体に出すと戸惑ってしまい、かえって慣れるのが遅くなりがちです。ごはんとトイレが安定し、部屋に入ると出てくるようになったら、静かな時間帯にドアを少し開けましょう。専用ルームは、そのあとも2〜3週間はそのまま残して、いつでも戻れるようにしておきます。
保護猫を最初に動物病院へ連れていくのはいつですか? 落ち着いていて人が近づける子なら、お迎えから3〜7日以内が目安です。団体によっては、譲渡契約で受診の時期が条件になっていることもあります。まだ怖がって隠れてばかりの子は、動物病院に電話して様子を伝え、ごはんとトイレが安定してからでもよいか相談しましょう。多くは2〜3週目になります。受診では健康診断、便検査、ワクチンの計画、避妊・去勢がまだならその時期の相談をします。24時間以上食べない、または水を飲まない、便や尿に血が混じる、呼吸が苦しそう、トイレで力んでも尿が出ない、紐を飲み込んだかもしれない、といったときは待たずに受診してください。
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