怖がりな猫に信頼してもらうには|人見知り・保護猫の接し方

怖がりな猫に信頼してもらうには|人見知り・保護猫の接し方

怖がりな猫と暮らしていて、いちばん胸が熱くなる瞬間。それは、その子が自分から部屋を横切って近づいてきて、となりに座ったり、飼い主さんの足もとで眠ってしまったりする、その最初の一度です。やり方が合っていて、時間さえかければ、怖がりな猫の多くはそこまでたどり着けます。この記事では、そこまでの道のりを一歩ずつご案内します。飼い主さんのそばが、安心できる場所、そして少し好きな場所にまでなっていくように。

猫はどうして人を怖がるの?

お客さんが来たとたんにゴロンとおなかを見せて、なでてとせがむ。そんな人なつっこい猫を見たことがあるかもしれません。それにくらべてうちの子は、近づいただけでさっと逃げてしまう。同じ猫なのに、どうしてこんなに違うのでしょう。猫が人になつくかどうかは、その子の性格とこれまでの経験に大きく左右されますし、理由もひとつではありません。

社会化が足りていない猫がいます。人を「日常の一部」として学ぶ、子猫のごく短い時期に、おだやかでやさしい人と十分に出会えなかった子です。そういう猫にとって人は、よいことをくれる相手というより、大きくて予測のつかない存在として映っています。生まれつき怖がりな猫もいます。人にも慎重なタイプがいるのと同じで、少しずつ心を開いてはくれますが、驚きやすく、立ち直りもゆっくりです。そして、もともとは問題のない子が、引っ越しでいっぱいいっぱいになっているだけのこともあります。少し時間をあげれば、落ち着いてくる子です。

まず、体の痛みではないかを確かめる

その子が離れていくのは、体のどこかが痛いからかもしれません。これは行動が「最近になって出てきた」ときにいちばん大切になります。今まで触らせてくれていたのに急に触らせなくなった、急に隠れるようになった、特定の場所をなでると身をすくめたり手を払ったりする。そんなときは、そこが痛いと伝えているのかもしれません。猫は痛みを隠すのがとても上手な動物で、引っこもることは、その数少ない手がかりのひとつです。こうした体の不調はよくあることで、いちばん「機嫌が悪いだけ」と取り違えられやすいものです。

見分け方の目安はこうです。迎えたときからずっと人見知りで、ほかに症状のない猫なら、たいていは怖さと向き合っている最中で、この先の方法がそのまま役に立ちます。けれども、避ける行動が急に出てきた、または急に強まったうえに、食欲やトイレの習慣、毛づくろいの変化をともなったり、特定の場所を触ると身をすくめたりするなら、行動の問題と決めつける前に、まず動物病院で診てもらいましょう。迷ったときは、痛みのサインストレス行動のまとめも合わせて見てみてください。いちばん安全なのは、先に健康チェックを受けることです。

環境が整えば、猫は半分ほぐれる

猫をほぐすのにいちばん効くのは、どんなテクニックよりも環境です。自分の空間を自分でコントロールできていると感じている猫は、怖がることに使うエネルギーがぐっと少なくてすみます。そうして生まれた余力こそが、飼い主さんに好奇心を向けるゆとりになります。

まずは隠れ場所から。そして、それを取り上げたくなる気持ちはぐっとこらえてください。いつでも姿を消せる猫のほうが、逃げ場のない猫よりも落ち着いています。高さの違う選択肢を用意してあげましょう。床に置く屋根つきのベッド、横に倒した段ボール箱、そしてどこか高い場所。高いところは、猫が安心して部屋全体を見渡せる位置になるからです。「いつでも逃げられる」とわかっている猫は、やがて「逃げなくてもいい」と気づいていきます。

次に、その場所を予測しやすくしてあげます。怖がりな猫は、不安になりやすい人と同じで、規則正しさの中で力を抜いていきます。ごはんはだいたい同じ時間に、一日のリズムは一定に、家具もあまり動かさずに。においも大きな要素で、しかも見落とされがちです。猫は主ににおいで家を読み取っているからです。飼い主さんが着た服を一枚、その子の安心できる場所のそばに置いておくと、飼い主さんのにおいが家具の一部のようになじみ、突然あらわれる刺激になりにくくなります。その子のそばでは、飼い主さん自身も姿勢を低くし、動きはゆっくりと。上からかぶさったり、頭の上から手を下ろしたりしないこと。獲物となる小さな動物にとっては、それは上空から舞い降りるタカのように感じられるからです。

飼い主さんの目線や声も、環境の一部です。猫の言葉では、じっと見つめることは脅しになります。その子がこちらを見ているのに気づいたら、視線を少しそらしてあげましょう。返事をしたいなら、ゆっくりまばたきを。目を細めて、ひと呼吸だけ閉じてみせます。これは魔法の合言葉ではなく、「敵意はないよ」と伝える、威圧感の少ない方法です。人がゆっくりまばたきをすると、猫もまばたきを返しやすく、知らない人にも近づきやすくなる、という研究もあります。いちばん「やさしいあいさつ」に近い動きだと言えそうです。そこに、落ち着いた静かな声をいつも同じように添えれば、たとえ今やっていることをつぶやくだけでも、その子がよりどころにできる、なじみのある予測しやすいサインがもうひとつ増えます。

少し意外かもしれませんが、いちばんよい接し方が「あまり何もしないこと」である場合は多いのです。床に座って本を読み、猫を完全に無視している人のほうが、しゃがんで見つめて手を伸ばしている人より、ずっと近づきやすく見えます。そこにいて、退屈そうにして、距離はその子に詰めさせてあげましょう。怖さに休む場所ができれば、たいてい好奇心のほうが勝っていきます。

ごはんと遊びで、信頼を少しずつ育てる

安心できる家は、猫がいつも身構えているのをやめさせてくれます。それを本物の信頼に変えていくのは、くり返し届けるひとつのメッセージです。「この人がいると、いいことが起きる」。やることはシンプルで、飼い主さんの存在を、その子がもともとほしいものと結びつけるだけ。小さなくり返しを重ねるうちに、飼い主さんはその子にとって、安心できて、いつもいいことを連れてくる人になっていきます。しかも飼い主さんの存在は、思っているより価値が高いかもしれません。食べ物・おもちゃ・におい・人とのふれあいを並べて猫に自由に選ばせた実験では、いちばん多くの猫が真っ先に選んだのは人とのふれあいで、食べ物より前でした。その子は本当は飼い主さんを求めていて、今はまだ受け取れないだけなのです。

ごはんは、いちばん頼れる最初の通貨です。具体的ですし、猫はどのみち食べなければなりません。飼い主さんが離れたときにしか食べないなら、それを出発点にしましょう。ごはんを置いたら、その子が食べられる距離まで下がり、それから何日もかけて、その距離を数センチずつ縮めていきます。食べているあいだ、見つめずにそばに座る。準備ができたら、おやつを一粒、手から。そうすると「この部屋」ではなく「飼い主さん本人」が、いいことの出どころになります。コツは、その子がほとんど気づかないくらい小さな一歩ずつ動くことです。

遊びには、ごはんにはできないことができます。距離という緩衝を保ったまま、飼い主さんとやりとりできるのです。猫じゃらしは、いわば数歩ぶんの安全な距離と、その先にある飼い主さんの手です。指には絶対に近づかない怖がりな猫でも、まったく触れずに「捕まえられる」羽根なら、よく追いかけます。そして狩りという行為そのものが、猫を身を固くしてうずくまった状態から引き出し、自信によく似た状態へと連れ出してくれます。これは、その子のそばで動くものによい印象を持ってもらえる、数少ない方法のひとつでもあります。そのいいものは動いていて、その子は自分から近づくことを選んでいるからです。

この道のりは必ず行ったり来たりします。そのつもりでいてください。火曜日になでさせてくれた猫が、水曜日にはまったく寄りつかないこともあります。動物病院、来客、雷雨。たった一度のそれが、何週間も積み上げたように見えた進歩を、ひと晩で巻き戻すこともあります。これは正常なことで、飼い主さんが何かを間違えたサインではありません。そうなったら、その子が落ち着いていた最後の距離まで戻り、そこからまたゆっくり積み直しましょう。怖がりな猫の信頼が一直線に伸びることはまれで、たいていは数歩進んで少し下がるのくり返しです。それでも数か月の長さで見れば、全体としてはよい方向へ向かっています。

触る前に、「同意」を読めるようになる

善意の人がいちばんやってしまいがちな失敗は、「楽しんでいる」のではなく「我慢している」だけの猫を触ってしまうことです。自分から近づいてくる猫と、固まったまま、抵抗するほうがもっとつらいためにされるがままになっている猫とは、本当に違います。我慢の限界を超えて無理に触られた猫は、「手は予測がつかないもの」だと学んでしまいます。

たいていの失敗を防ぐルールはシンプルです。その子から始めさせ、続けるかどうかもその子に選ばせること。近づいてきたら、鼻の高さに指を一本だけ差し出して、こちらから手を伸ばすのではなく、その子に嗅がせ、こすりつけさせます。ほおを手にぐいと押しつけてくる猫は、同意しています。体を後ろに引く、固まる、しっぽをゆっくり振る、そんな猫は同意していません。最初のうち触れるのは、猫がだいたい受け入れてくれる場所にとどめましょう。ほお、あご、耳のつけ根です。おなか、しっぽ、後ろ足は、関係がしっかりするまで避けておきます。一回は短めに、その子がまだ楽しんでいるうちに手を引くこと。「もう十分」と言われるまで待たないようにしましょう。

その最後のサインは知っておく価値があります。「なでていたら急に噛む」猫は、たいてい、もっと早い段階の小さな「やめてほしい」が見落とされていた子だからです。しっぽが振られはじめる、耳が後ろを向く・後ろに倒れる、背中の皮膚がぴくっとする、急に動きが止まる。こうしたサインがたいてい先に出ています。「前ぶれもなく噛む」ように見える猫の多くは、その前ぶれが小さすぎて受け取られなかっただけなのです。こうした細かなサインをもっと読めるようになりたい飼い主さんには、猫のボディランゲージのくわしいガイドがぴったりです。ただ、一言でまとめるなら「迷ったら手を引く」。その子の都合で一回を終わらせること自体が、信頼の預金になります。「近づいても、けっして閉じ込められはしない」と、その子に教えてあげられるからです。

専門家に頼るタイミング

たいていの人見知りの猫は、安心できる家と、辛抱強い飼い主さんがいれば、数週間から数か月で進歩します。でも、なかにはそうならない子もいます。怖がり方がずっと極端なまま、数か月見ても良くなるどころか悪化していく、あるいは安全な隅でだけやわらいで環境のすべてが怖さの対象になっているようなら、専門家に相談する価値があります。怖さに体のサインがついてくるときは、なおさらです。食べない、トイレを使わなくなった、毛づくろいで皮膚がはげるほどになっている、あるいは怖さが本物の攻撃性に転じて毎日のお世話が危ないとき。どれも飼い主さんの失敗ではなく、その問題が「辛抱だけ」では大きすぎる、というだけのことです。

まずはかかりつけの獣医師から始めましょう。背景にある体の要因を除外してくれますし、必要なら、難しいケースを専門に扱う、行動診療を専門とする獣医師につないでくれます。猫によっては、お薬で全体の怖さのレベルを少し下げると、信頼づくりがようやく前に進みはじめることもあります。不安をかかえた人がカウンセリングを始めるときと同じ考え方です。その子に合うかどうか、実際にどう進めるかは、獣医師が一頭ずつ判断することで、記事で決められることではありません。

つまるところ、たどり着くのはいつも同じ一点です。怖がっている猫を、言葉で説き伏せて信頼させることはできませんし、急かすこともできません。飼い主さんにできるのは、「そばにいること」を安全で、予測しやすく、そっと報われるものにして、あとは「もう十分かな」と思うよりもう少し長く待つこと。その安心が本物だと、その子が自分のやり方で納得していくのを見守ることです。たいていの猫は、それだけでずいぶんやわらいでいきます。しかもそれは、その子だけのペースで。たとえひざ猫にならなかったとしても、安心して一緒に暮らせるようになれば、それはもう十分すてきなことです。

よくある質問

怖がりな猫が信頼してくれるまで、どれくらいかかりますか? その子のスタート地点によって大きく変わります。もともと問題はなく、引っ越しでいっぱいいっぱいになっているだけの猫なら、数週間でほぐれることもあります。生まれつき怖がりな猫なら、ふつう数か月。子猫のころから人との接触がほとんどなかった元野良の成猫は、何か月もかかることが多く、落ち着いて一緒に暮らせるようになっても、触られるのは最後まで本当には好きにならない子もいます。進歩を測る正直なものさしは「どれだけ甘えるか」ではなく、怖さが安定して減っているかどうかです。同じ部屋で一緒にごはんを食べる、開けた場所で眠る、自分から近づいてくる。そういったサインを見てあげてください。

怖がりな猫は、隠れさせておくべきですか、それとも引っぱり出すべきですか? 隠れさせてあげてください。いつでも引っこめる猫のほうが、逃げ場のない猫より落ち着いています。隠れ場所を取り上げたり無理に引っぱり出したりすると、良くなるどころか悪くなります。目指すのは、部屋のほかの場所を十分に安全にして、その子が自分から出てくるようにすることです。そばに座り、無視して、ごはんや遊びといったいいことを、その子が受け入れられる距離で起こしてあげましょう。「いつでも逃げられる」と確信している猫こそ、やがて「逃げなくてもいい」と気づく子なのです。

どうしてうちの猫は一人にしか懐かないのですか? これはよくあることで、変えられない性質ではありません。たいていは、信頼そのものはもう育っていて、まだほかの人にまで広がっていないだけです。その子は「特定の一人」が安全だと先に学んだところで、「人というもの全般」も安全になりうる、というところまでまだ来ていません。家のほかの人も、同じやり方で同じ信頼を築けます。猫から始めさせ、自分をごはんや遊びと結びつけ、けっして接触を無理強いしないこと。ただ、人それぞれにスタートが少し遅れ、それぞれのペースで進むというだけです。

元野良の成猫でも、いつかひざ猫になれますか? なる子もいれば、ならない子も多く、どちらの結果も素晴らしいことです。元野良の成猫が、室内で穏やかに暮らし、飼い主さんの前でごはんを食べ、そばで眠れるようになれば、たとえ一生抱っこを望まなくても、とても大きな変化です。目標は「抱っこできる甘えん坊」よりも「前より怖がらないこと」に置きましょう。もともとそういうタイプではない猫にひざ猫を求めて押すと、たいてい逆効果になり、飼い主さんの手や接近そのものが脅威に感じられてしまいます。それは望んでいることの正反対です。

おやつを使うのと、慣れるまで触り続けるのとでは、どちらがいいですか? おやつと「選ぶ自由」のほうです。無理に触り続けるのではありません。楽しんでいるのではなく我慢しているだけの猫を何度も触ると、「手は予測がつかないもの」だと教えてしまい、信頼を後退させます。飼い主さんの存在をごはんや遊びと結びつけ、いつ近づくか・いつ接触を終えるかをその子に決めさせると、その子が自分でコントロールできるペースでよい印象が育ちます。無理に近づけること、いわゆる「フラッディング(強制的に慣れさせること)」は、猫ではたいてい逆効果になります。だからこそ行動の計画では、少しずつ慣らしていくやり方と、よい結びつきを使うのです。

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