
猫と暮らしていると、猫の毛はどこにでもついて回ります。ソファにも、服にも、昨日洗ったばかりのブランケットにも。その多くは、猫と暮らすうえでごく当たり前のことで、特に対処する必要はありません。ただ、抜け毛のそばには、気にかけておきたいことがいくつかあります。毛が均一にではなく部分的に薄くなること、皮膚を引っぱる毛のもつれ、そして毛づくろいのときに愛猫が飲み込む毛です。この記事では、ふつうの抜け毛と注意したいサインの見分け方、ブラッシングの頻度とやり方、愛猫を傷つけずに毛のもつれをほぐす方法、そして抜け毛と毛玉の関係について解説します。
その抜け毛は正常?それとも病気のサイン?
まずは、安心できるお話からです。抜け毛のほとんどはごく正常なもので、家の中で見つかる毛の量は、愛猫に問題があるかどうかを判断する目安にはなりません。よく毛が抜ける猫でも、健康そのものということはよくあります。注目したいのは、抜ける毛の量ではなく、被毛(ひもう)そのものが変化していないかどうかです。
正常な抜け毛のときは、被毛は見た目にはこれまでと変わりません。家具に毛のかたまりがたまり、ときどき毛玉を吐いたとしても、全体の厚み・長さ・密度は均一に保たれています。よく見てほしいのは、跡を残すような毛の抜け方です。地肌が見えるはげ、目に見えて薄くなった部分、切れたように短くまばらになった毛、あるいは赤み・かさぶた・傷・においのある皮膚。猫が特定の場所をなめ続けたり、かいたり噛んだりして、そこがはげてしまっているなら、その場所がかゆい、または痛いというサインです。
皮膚以外のところを指し示すサインもあります。毛が薄くなるのと同時に、体重が減る、水を飲む量とトイレの回数が増える、食欲が変わる、嘔吐する、元気がなくなるといったことがあれば、被毛は本当の問題ではなく、症状のひとつです。この組み合わせが見られるときは、早めに動物病院で診てもらいましょう。
抜け毛は病気そのものではなく症状なので、その背景にあるものを少し知っておくと役立ちます。毛が抜ける多くのケースは、かゆみのために猫が自分でなめたり噛んだりして毛を抜いてしまうものです。そのかゆみのもっとも多い原因のひとつが、ノミに刺されることへのアレルギー(ノミアレルギー性皮膚炎)です。ノミが大量にいなくても起こります。敏感な猫では、一、二か所刺されただけでも、一か所の毛をなめて抜いてしまうほどのかゆみが出ることがあり、室内猫でも寄生虫の予防が大切なのはこのためです。ヒゼンダニなどのダニも同じように毛を抜けさせますし、皮膚糸状菌症(ひふしじょうきんしょう、いわゆる猫カビ)という真菌感染(しんきんかんせん)も、毛が部分的に抜ける原因になります。高齢の猫では、甲状腺機能亢進症(こうじょうせんきのうこうしんしょう)が被毛の状態を変える代表的な原因で、糖尿病も被毛に影響することがあります。
飼い主さんがいちばん思い当たりやすい原因がストレスで、これは実際にあります。不安を感じると過剰に毛づくろいをする猫がいるのです。ただ、その結論に飛びつくのは少し待ってください。獣医師は、強迫的な過剰グルーミングを「除外診断(じょがいしんだん)」、つまりほかの原因を先に除いたうえで診断するものとして扱います。「ストレスでなめている」とされた猫を実際にきちんと検査してみると、およそ4匹に3匹は、アレルギーや痛みといった体の原因が見つかります。ですから、愛猫がお腹をなめてはげさせているなら、不安のせいだと決める前に、まず動物病院で診てもらいましょう。
猫の毛が抜けるしくみ
抜け毛は、毛のはたらきの後半部分にすぎません。一本一本の毛は、一定期間伸びたあと成長を止めて休み、やがて押し出されて抜け落ち、新しい毛と入れ替わります。猫の毛は全部が同じ周期で動いているわけではないので、つねにどこかで毛が抜けています。猫が一度に全部抜けるのではなく、少しずつ抜け続けるのはこのためです。
どのくらい目立つかは、被毛のタイプによります。多くの猫は、厚みのある二層構造の被毛をもっています。外側は体を守るオーバーコートで、その下に、保温を担う柔らかく密なアンダーコートがあります。一方で、アンダーコートがほとんど、あるいはまったくない、薄めの被毛をもつ品種もいます。アンダーコートのほうが多く抜けるため、二層の被毛をしっかりもつ猫や、メインクーンやペルシャのような長毛種は、毛の短い薄めの猫よりも抜け毛が多くなります。
季節も関係していて、その主なきっかけは気温ではなく日照時間の長さです。外に出られる猫は、春に日が長くなるのを感じ取り、冬のあいだに蓄えた厚いアンダーコートを、季節の換毛(かんもう)でまとめて手放します。秋にはもう少し小さな衣替えがあります。室内で暮らす猫は、一年を通じて比較的安定した照明と暖房の中で過ごすため、この季節の合図が弱まり、多くは毎月ほぼ一定のペースで毛が抜けます。室内猫がいつも毛が抜けているように見えても、それはたいてい正常なことで、異常ではありません。
被毛は、ある程度まで猫の全身の健康を映す鏡でもあります。バランスのよい良質な食事をとっている猫は、たいていつやのある被毛をもち、抜け方も健康的です。被毛がつやを失ってぱさつく、脂っぽくなる、もろくなる、あるいは抜け毛が目に見えて増えたときは、まれに栄養の不足や、何らかの病気の初期のサインであることがあります。そうしたときは、市販のサプリメントで補おうとする前に、獣医師に相談してみましょう。
愛猫のブラッシングのしかた
抜け毛とうまく付き合っていくうえで、いちばん頼りになるのがブラッシングです。ブラシで受け止めた毛は一本残らず、ソファに落ちることも、そしてより大切なことに、愛猫に飲み込まれることもない毛です。
頻度は被毛によります。短毛の猫は、週に1回ほどのブラッシングで十分です。長毛の猫は毎日、少なくとも一日おきにブラッシングが必要です。長い被毛は、何日かさぼるともつれはじめるからです。短毛なら、柔らかいブラシやラバー製のグルーミング手袋で足ります。長毛なら、スリッカーブラシと金属のコームを組み合わせると、より効果的です。コームは、ブラシが上をすべってしまうアンダーコートまで届くからです。
やり方はシンプルです。毛の生えている向きにそって、頭から尾のほうへとブラッシングし、長毛の猫は仕上げにコームを通して、下に残った毛を取り出します。もつれが始まりやすい摩擦の多い部分、つまりわきの下、お腹、後ろ足のあいだ、耳の後ろ、首まわりは、とくに丁寧にケアしましょう。一回一回を短く、心地よいものにして、おやつを添え、愛猫が嫌になる前に切り上げます。子猫のうちにブラッシングはふつうのことだと覚えた猫は、その後の一生を通じてずっとケアしやすくなります。
ブラッシングには、もうひとつの役割があります。いちばん身近な健康チェックの機会にもなるのです。飼い主さんの手は、目では見落とすものに気づきます。小さなしこり、かさぶた、ノミのふん、さわると痛がる皮膚。爪の様子をあわせて確認するのにもちょうどよく、その方法は猫の爪のケアガイドでくわしく解説しています。シニア猫には、この点でとくに気を配ってあげましょう。関節のこわばりや歯の不快感があると、シニア猫は自分で十分に毛づくろいができなくなり、被毛が脂っぽくなったり、もつれはじめたりします。猫がしきれない部分を飼い主さんが補ってあげる必要があり、これはシニア猫のケアガイドでも、年齢とともに現れるほかの小さな変化とあわせて取り上げています。
毛のもつれを安全にほぐすには
毛のもつれは、抜けた毛がきれいに落ちきらず、まだ猫についている毛にからまり、時間とともにきつく密なかたまりになっていくことで起こります。もつれができるのは、いちばんブラッシングが必要なのと同じ摩擦の多い部分です。わきの下、耳の後ろ、後ろ足のあいだ、お腹、おしりまわりです。毛のもつれは、見た目が乱れるだけではありません。猫が動くたびに皮膚を引っぱり、きついもつれは、下の皮膚を裂いたり内出血させたりすることもあり、皮膚に湿気を閉じ込めて、痛みや感染を招くこともあります。
小さくゆるいもつれなら、自宅で対応できることも多いです。まずは指でほぐし、もつれの根もと、皮膚に接しているところを押さえて、皮膚ではなくもつれのほうを引くようにします。次に、毛の先のほうからコームを入れ、一気に引き抜かずに少しずつ、もつれをゆるめていきます。コーンスターチを少しふりかけると毛が分かれやすくなり、少し大きめのもつれには、もつれ取り用のコームが役立ちます。一回の時間は短くし、愛猫が嫌がりはじめたら、いったんやめて、あとで仕切り直しましょう。
毛のもつれをはさみで切らないでください
これは、グルーミングのときに飼い主さんが愛猫を傷つけてしまう、もっとも多い原因のひとつです。きつい毛のもつれは、皮膚をもつれの中へと引き上げます。そのため皮膚が引っぱられ、もつれの根もとに入り込んで、見えない状態になります。もつれの下にはさみを差し込むと、その皮膚を一緒にはさんでしまい、結果として、縫合(ほうごう)が必要になるほどの切り傷を負わせてしまいます。コームでほぐせないもつれは、はさみに手を伸ばさないでください。獣医師やトリマーに任せれば、電動バリカンで安全に剃り取ってもらえます。
自宅での対応の範囲を超えたもつれもあります。もつれが大きい、皮膚にぴったり張りついている、猫が明らかに痛がっている、下の皮膚が赤くただれているといったときは、獣医師やトリマーに任せましょう。電動バリカンで安全に剃り取ってもらえます。猫が強く痛がる場合は、動物病院で、必要に応じて軽い鎮静(ちんせい)をかけて処置することもあります。ひどい毛のもつれと自宅で格闘しても、よいことはありません。ひどいもつれの下の皮膚は、もともと治療が必要なこともあります。毛のもつれの本当の解決策は、次のもつれをつくらないことで、それは結局、抜けた毛がからまる前に取り除けるよう、こまめにブラッシングすることに尽きます。
抜け毛と毛玉の関係
愛猫の抜けた毛は、すべてが床に落ちるわけではありません。毛づくろいをする猫はかなりの量の毛を飲み込み、その多くはそのまま腸を通って便と一緒に出ていきますが、一部は胃にたまり、毛玉として吐き出されます。このつながりこそ、ブラッシングが、家をきれいに保つこと以上に大切な理由です。ブラシで受け止めた毛は、愛猫が飲み込めない毛だからです。毛玉が日常的に見られるなら、毛玉ガイドで、どの程度までが正常か、どこからが正常でないか、そして毛玉を減らす方法を解説しています。
Furwise でできること
ブラッシングは、つい後回しになりがちです。もつれができてしまうか、抜け毛が手に負えなくなるまで、何も急かしてくれるものがないからです。Furwiseでは、ブラッシングの記録をつけ、おだやかなリマインダーを設定できます。長毛の猫のブラッシングを、もつれができたあとに追いかけるのではなく、その前に間に合うリズムで続けられます。被毛に何か気づいたとき、たとえば新しく薄くなった部分、かさぶた、いつもより多い抜け毛などは、日付とあわせて書き留めておけます。動物病院に行くころには、あいまいな記憶ではなく記録が手元にあります。多頭飼いの家庭では、猫ごとにメモを残せるので、毎日ブラッシングが必要なのはどの子で、ほとんど手のかからないのはどの子か、把握しやすくなります。
結局のところ、抜け毛はその大半が、猫と暮らすということそのものであり、目指すのはそれをなくすことではありません。本当に気を配るべきことは、もっと絞られています。毛が単に「抜けている」のか、それとも「変化している」のかを見ておくこと。毛のもつれを、まだ小さいうちに対処すること。そして、抜けた毛を愛猫の体の外に、そして胃の外にとどめておけるよう、こまめにブラッシングすること。この数点を続けていれば、あとはブランケットについた毛くらいのものです。
よくある質問
室内で飼っている猫が一年中よく毛が抜けるのはなぜですか? 室内猫にとっては正常なことです。季節性の抜け毛は日照時間の変化によって起こりますが、室内猫は一年を通じて安定した照明と暖房の中で暮らしているため、その季節の合図が弱まります。春にまとめて換毛するのではなく、毎月ほぼ一定のペースで毛が抜けることが多いのです。被毛の厚みが均一に保たれていて、はげや皮膚のトラブルがなければ、一年中の抜け毛は問題ではありません。
猫のブラッシングはどのくらいの頻度ですればよいですか? 被毛によります。短毛の猫は週に1回ほどで十分です。長毛の猫は毎日、少なくとも一日おきにブラッシングが必要です。長い被毛は数日さぼるともつれてしまうからです。毛の生えている向きにそってブラッシングし、もつれができやすいわきの下、お腹、耳の後ろ、後ろ足のあいだは、とくに丁寧にケアしましょう。
抜け毛が病気のサインなのはどんなときですか? 毛の量よりも、被毛そのものが変化しているかどうかが大切です。地肌が見えるはげ、目に見えて薄くなった部分、切れたように短くまばらな毛、赤み・かさぶた・傷・においのある皮膚、そして特定の場所をなめたりかいたりしてはげさせていないかに注意してください。抜け毛と同時に、体重が減る、水を飲む量が増える、食欲が変わる、嘔吐する、元気がないといったことがあれば、皮膚以外の問題を示しているので、早めに動物病院を受診しましょう。
毛のもつれをはさみで切ってもよいですか? いけません。これは、グルーミングのときに飼い主さんが愛猫を傷つけてしまう、もっとも多い原因のひとつです。きつい毛のもつれは皮膚をもつれの根もとへと引き上げるため、皮膚はもつれの中に隠れて見えなくなり、下からはさみを差し込むと、縫合が必要になるほど猫を切ってしまうことがあります。小さなもつれは、指とコームで少しずつほぐしてください。どうしてもほぐせないもつれは、獣医師やトリマーに電動バリカンで安全に剃り取ってもらいましょう。
短毛の猫にもブラッシングは必要ですか? 必要です。ただし長毛の猫ほど頻繁でなくて構いません。週に1回、柔らかいブラシやラバー製のグルーミング手袋でブラッシングすれば、毛が家具についたり飲み込まれたりする前に取り除けますし、被毛の健康を保つ自然な皮脂(ひし)を行きわたらせ、しこり・かさぶた・ノミがないか定期的に確かめる機会にもなります。短毛は長毛よりずっともつれにくいですが、それでも毛は抜けますし、ブラッシングはやはり役立ちます。
シャンプーや毛を刈ることで抜け毛は減らせますか? どちらも、抜け毛を減らすよい方法ではありません。猫は自分で上手に毛づくろいをするので、シャンプーが必要になることはほとんどなく、洗いすぎるとかえって皮膚が乾いて被毛の状態が悪くなります。健康な被毛を刈るのも勧められません。被毛は暑さからも寒さからも体を守り、皮膚を保護していますし、刈ったあとに毛が不ぞろいに生えてくることもあります。抜け毛の管理には、こまめなブラッシングが安全で効果的な方法です。毛を刈るのは、ひどいもつれのときに、専門家に任せて行うのがよいでしょう。
参考文献
- International Cat Care. Grooming Your Cat. iCatCare
- Texas A&M College of Veterinary Medicine & Biomedical Sciences. A Thin Line: Normal Shedding vs. Feline Alopecia. Texas A&M VMBS
- VCA Animal Hospitals. Grooming and Coat Care for Your Cat. VCA
- Cornell Feline Health Center. Hyperthyroidism in Cats. Cornell University
- Waisglass, S. E., Landsberg, G. M., Yager, J. A., & Hall, J. A. (2006). Underlying medical conditions in cats with presumptive psychogenic alopecia. Journal of the American Veterinary Medical Association, 228(11), 1705-1709. PubMed