猫の甲状腺機能亢進症|症状・治療法・腎臓病との関係を解説

猫の甲状腺機能亢進症|症状・治療法・腎臓病との関係を解説

シニア期に入った愛猫が、前より食べるようになったのに体重が減っている。水を飲む量が増えた気がする。夜になるとそわそわして落ち着かない。こうした変化は「年を取ったからかな」と見過ごされがちですが、実はこの組み合わせは獣医学では典型的なサインとして知られています。甲状腺機能亢進症(こうじょうせんきのうこうしんしょう)という、猫で最も多い内分泌疾患かもしれません。

甲状腺機能亢進症とは

甲状腺は首の部分にあり、代謝を調整するホルモン(T4 と T3)を作っています。甲状腺機能亢進症では、この甲状腺が大きくなって過剰に働き、体内に甲状腺ホルモンがあふれます。代謝率が上がり、心臓の負担が増え、食べた分以上のカロリーを消費してしまいます。

97〜99% の症例では、甲状腺組織の良性の増殖(腺腫様過形成(せんしゅようかけいせい)または腺腫(せんしゅ))が原因です。甲状腺の悪性腫瘍はわずか 1〜3% にとどまります(Peterson & Broome, 2015)。高齢猫に多い病気で、典型的な診断年齢は 12〜13 歳前後。8 歳未満で発症することはほとんどありません。

どれくらい多いのかというと、9 歳以上の猫の約 10〜12% がこの病気にかかるという報告が複数あります(Peterson, 2012; Edinboro et al., 2004)。およそ 10 頭に 1 頭です。シャム猫やヒマラヤンはリスクがやや低いとされていますが、その理由はわかっていません。

この病気が初めて報告されたのは 1979 年で、それ以降増え続けています。実際に発症率が上がっているのか、健康診断の普及で見つかりやすくなったのか、猫の寿命が延びて発症年齢に達する個体が増えたのか、現時点では議論が続いています(Peterson, 2012)。

気をつけたい症状

最も特徴的なのは、食欲が正常またはむしろ増えているのに体重が減り続ける という組み合わせです。甲状腺機能亢進症の猫の 70〜90% にこの症状が見られます。高齢猫でこの組み合わせがあれば、一度獣医師に相談してみる価値があります。

そのほかによく見られる症状としては、以下のようなものがあります。

  • 飲水量と尿量の増加
  • 嘔吐(おうと)や下痢(げり)
  • 落ち着きのなさ、そわそわする
  • 心拍数の増加
  • 被毛(ひもう)の艶がなくなり、毛並みが乱れる

獣医師が診察すると、心雑音(しんざつおん)、奔馬調律(ほんばちょうりつ)、頸部の甲状腺結節(けっせつ)を触知できることもあります。高齢の愛猫が急に夜中に走り回ったり鳴いたりするようになり、体重減少を伴う場合は、甲状腺機能亢進症の典型的なパターンです。そのほか注意すべき睡眠の変化は、愛猫の睡眠ガイドにまとめています。

約 5〜10% の症例では「無力型甲状腺機能亢進症」と呼ばれる非典型的な表現をとります(Carney et al., 2016)。このタイプは亢進どころか元気がなくなり、食欲も落ちます。想像と逆のため、診断が遅れることがあります。

8 歳を超えた猫で体重が減りつつ食欲が変わらない、あるいは増えているようなら、検査を受ける目安になります。飲水量の増加や嘔吐を伴う場合は、より早めの受診をおすすめします。

診断方法

まず行われるのは血液検査で、総サイロキシン(TT4)を測定します。甲状腺機能亢進症の猫では TT4 が明らかに高くなることがほとんどです。中等度〜重度の症例に対する感度は約 91〜98% と報告されています(Peterson, 2013)。

ただし、初期や軽度の場合は TT4 が正常上限付近にとどまり、はっきりと異常とは言い切れないことがあります。他の病気が同時にあると、甲状腺機能亢進症があるにもかかわらず T4 が正常範囲に抑えられてしまうこともあります(正常甲状腺疾患症候群(せいじょうこうじょうせんしっかんしょうこうぐん))。臨床的に疑いが残る場合は、数週間後に再検査する、遊離 T4(ゆうりティーフォー)を測る、TSH を確認する(TSH は TT4 と合わせて判断する必要があり、単独では診断できません)などの方法が検討されます。

甲状腺シンチグラフィ(テクネチウム 99m を用いた核医学検査)は、過剰に活動している甲状腺組織の位置を正確に特定する検査で、異所性の甲状腺組織も検出できます。手術や放射性ヨウ素治療を計画する際に特に重要です。

獣医師は全身の血液検査も行います。甲状腺機能亢進症の猫では約 60〜75% で肝酵素(ALT、ALP)が上昇しますが、治療後に正常化するのが通常です(Carney et al., 2016)。腎臓の数値(クレアチニン、BUN、SDMA)は治療方針を決めるうえで非常に重要で、その理由は次のセクションで説明します。血圧測定や心臓の評価が勧められることもあります。治療されていない甲状腺機能亢進症は二次的に心筋を厚くすることがあり、甲状腺ホルモンが正常に戻れば改善するケースが多いためです。

治療法

主に 4 つの方法があります。どの猫にも当てはまる「最良の治療法」はなく、愛猫の健康状態、飼い主さんの生活環境、お住まいの地域で利用できる医療資源によって最適な選択は変わります。治療法の選択は、必ず獣医師と相談のうえ決めてください。

放射性ヨウ素治療(I-131)

多くの獣医内分泌専門医が最も信頼性の高い根治療法と考えている方法です。放射性ヨウ素を一回投与(経口または注射)すると、過剰に働いている甲状腺組織を選択的に破壊し、正常な組織は温存されます。一回の治療での治癒率は約 95% です(Peterson & Becker, 1995)。

主な課題は実務面にあります。放射線管理上、認可施設での入院が必要で、日本では実施できる施設が限られており、放射線管理の規制上 1〜3 週間程度の入院が必要になります。費用もかなりかかります。治療後に約 2〜5% の猫が永続的な甲状腺機能低下症になり、甲状腺ホルモンの補充が必要になることがあります。

I-131 は不可逆的な治療であるため、ほとんどの獣医師は事前にチアマゾールの試験投与を行い、腎機能への影響を確認してから最終判断をすすめます。

抗甲状腺薬

チアマゾール(海外ではメチマゾールとも呼ばれます。商品名メルカゾール。プロドラッグであるカルビマゾールを使用する国もあります)は、世界的に最もよく使われる初期治療です。甲状腺ホルモンの合成を阻害する薬で、甲状腺組織そのものは破壊しないため、継続的な投薬が必要になります。

獣医師が決める用量で、90% 以上の猫が 2〜4 週間以内に正常な甲状腺レベルに戻ります。錠剤、液剤、経皮吸収剤(耳の内側に塗布するタイプ)があります。経皮吸収剤を使用する際は、必ず手袋やフィンガーコットを着用してください。薬剤は人の皮膚からも吸収されるため、特に妊娠中の方は注意が必要です。最大の利点は可逆性です。甲状腺が正常化した後に腎機能が悪化した場合、用量を調整したり中止したりできます。

副作用は通常軽度で、多くは自然に改善します。消化器症状(10〜20%)、倦怠感、顔面の掻痒(そうよう)(2〜3%)などです(Trepanier, 2007)。頻度は低いものの、肝毒性や骨髄抑制(こつずいよくせい)といった重篤な副作用もあり得るため、定期的な血液検査が欠かせません。AAFP(米国猫専門医協会)ガイドラインでは、投薬開始後 2〜4 週間に T4・血球数・肝腎機能を確認し、その後は 3〜6 か月ごとの再検査をすすめています(Carney et al., 2016)。

外科手術

甲状腺の摘出手術(甲状腺摘出術(こうじょうせんてきしゅつじゅつ))は根治が期待できますが、固有のリスクがあります。カルシウムを調節する副甲状腺(ふくこうじょうせん)が甲状腺のすぐ隣にあるため、両側の手術では 5〜25% の確率で副甲状腺が損傷し、危険な低カルシウム血症を引き起こすことがあります。高齢で心臓に問題のある猫では麻酔のリスクも高まります。術前にチアマゾールで甲状腺機能を安定させてから手術に臨むのが標準的な流れです。

ヨウ素制限食

甲状腺ホルモンの材料であるヨウ素を厳しく制限した処方食で、T4 の産生を抑える方法です。この食事だけを与える必要があり、おやつ、他のフード、外で捕まえた獲物も口にできません。同居猫のフードをほんの少し舐めたり、床に落ちた普通の食べ物のかけらを食べたりしただけでも、効果が損なわれる可能性があります。

この方法は他の 3 つと比べて議論が多い選択肢です。T4 を正常化できる猫が多い一方で、甲状腺の病変(腺腫や過形成)自体は治療されないため増殖が進み続けます。多頭飼育の家庭では遵守が非常に困難です。AAFP ガイドラインでは、他の治療が難しい場合の選択肢として位置づけられています(Carney et al., 2016)。獣医師からこの方法をすすめられた場合は、メリットと限界について獣医師とよく相談することが大切です。

甲状腺機能亢進症と腎臓病の関係

この記事で一つだけ覚えておいていただきたいことがあるとすれば、これです。

過剰な甲状腺ホルモンは腎臓への血流量を増やし、糸球体濾過量(しきゅうたいろかりょう・GFR)を実態以上に高く見せます。すでに初期の腎臓病を抱えている猫では、この作用によって問題が覆い隠されてしまいます。血液検査の腎機能の値が、実際よりも良く見えてしまうのです。

甲状腺機能亢進症を治療して甲状腺ホルモンが正常に戻ると、腎臓への血流量も本来の状態に戻ります。それまで隠れていた腎臓の数値が表面に出てきます。これは治療が腎臓を傷つけたわけではありません。腎臓病はもともとそこにあったのに、見えていなかっただけです。

研究では、甲状腺の値が正常化してから数か月以内に、15〜40% の猫で血液検査上の腎機能低下が見られると報告されています(DiBartola et al., 1996; Williams et al., 2010)。さらに、治療で甲状腺ホルモンが下がりすぎて甲状腺機能低下症になった猫は、腎臓病の進行が速まり、生存期間も短くなることが示されています(Williams et al., 2010)。

だからこそ、多くの獣医師は I-131 や手術といった不可逆的な治療を検討する前に、チアマゾールの試験投与を行います。試験期間中に甲状腺をコントロールした状態で腎臓の数値がどう変化するかを確認し、もし明らかな腎臓病が浮上してきた場合は、甲状腺のコントロールと腎臓の保護のバランスを取れるよう治療計画を調整できるのです。

ご自宅でできること

甲状腺機能亢進症をご自宅で診断したり治療したりすることはできませんが、早期発見の手助けはできます。

体重を記録しましょう。 ここでご紹介する中で、早期発見にもっとも役立つのがこれです。甲状腺機能亢進症に限らず、多くの病気に当てはまります。数か月かけて少しずつ体重が減っている猫は、見た目では気づきにくいものです。2〜4 週間に一度体重を量り、数字を記録しておきましょう。

症状の「組み合わせ」に注目してください。 体重減少と食欲増加。体重減少と飲水量の増加。高齢猫でこうした組み合わせが見られたら、獣医師に相談するタイミングです。

定期検診を続けましょう。 AAFP は、7 歳以上のすべての猫に T4 を含む年 1 回の健康診断の血液検査を、10 歳以上では半年に 1 回の検査をすすめています。早期発見は治療の選択肢を広げ、予後の改善につながります。

すでに甲状腺機能亢進症の治療中の場合は、獣医師の定めた再検査スケジュールをしっかり守りましょう。甲状腺の値と腎機能の両方を継続的に確認する必要があるため、再検査を飛ばしてしまうと、変化を見逃すおそれがあります。

参考文献

  1. Carney, H. C., Ward, C. R., Bailey, S. J., et al. (2016). 2016 AAFP Guidelines for the Management of Feline Hyperthyroidism. Journal of Feline Medicine and Surgery, 18(5), 400-416.
  2. Peterson, M. E. (2012). Hyperthyroidism in cats: what’s causing this epidemic of thyroid disease and can we prevent it? Journal of Veterinary Internal Medicine, 26(4), 963-975.
  3. Peterson, M. E., & Broome, M. R. (2015). Thyroid scintigraphy findings in 917 cats with hyperthyroidism. Journal of Veterinary Internal Medicine, 29(5), 1412-1417.
  4. Peterson, M. E. (2013). Diagnostic testing for feline thyroid disease: total T4. Journal of the American Animal Hospital Association, 49(4), 243-250.
  5. Peterson, M. E., & Becker, D. V. (1995). Radioiodine treatment of 524 cats with hyperthyroidism. Journal of the American Veterinary Medical Association, 207(11), 1422-1428.
  6. Edinboro, C. H., Scott-Moncrieff, J. C., Janovitz, E., Thacker, H. L., & Glickman, L. T. (2004). Epidemiologic study of relationships between consumption of commercial canned food and risk of hyperthyroidism in cats. Journal of the American Veterinary Medical Association, 224(6), 879-886.
  7. Williams, T. L., Elliott, J., & Syme, H. M. (2010). Association of iatrogenic hypothyroidism with azotemia and reduced survival time in cats treated for hyperthyroidism. Journal of Veterinary Internal Medicine, 24(5), 1086-1092.
  8. DiBartola, S. P., Broome, M. R., Stein, B. S., & Nixon, M. (1996). Effect of treatment of hyperthyroidism on renal function in cats. Journal of the American Veterinary Medical Association, 208(6), 875-878.
  9. Trepanier, L. A. (2007). Pharmacologic management of feline hyperthyroidism. Veterinary Clinics of North America: Small Animal Practice, 37(4), 775-788.
  10. Cornell University College of Veterinary Medicine. (2024). Hyperthyroidism in Cats. Cornell Feline Health Center