愛猫の耳を覗いてみて、黒っぽい耳垢(みみあか)に気づき「掃除したほうがいいのかな」と思ったことはありませんか。「耳は定期的に掃除しましょう」というアドバイスの多くは、犬を想定したものです。猫の耳は犬よりも手がかからず、ほとんどの猫は一生耳掃除の必要がありません。健康な耳を掃除しすぎると、かえってトラブルの原因になります。
健康な猫の耳とは
健康な猫の耳の内側は淡いピンク色で、薄い茶色や黄色っぽい耳垢がわずかにあるだけです。強いにおい、腫れ、皮膚の引っかき傷やかさぶたはありません。耳をそっと触っても、愛猫が嫌がって避けたり縮こまったりすることもないはずです。
猫の外耳道(がいじどう)には毛がほとんどなく、後ろ足で器用に耳の手入れもするため、耳のトラブルは犬よりずっと少なめです。ほとんどの猫には、週に一度さっと目で確認する程度で十分です。見るだけにして、触りすぎないようにしましょう。
掃除が必要なとき、必要でないとき
健康な耳に定期的な掃除は必要ありません。外耳道では皮脂・耳垢・常在菌のバランスが保たれていて、洗浄液でたびたび流すとこのバランスが崩れ、かえって感染しやすくなります。
掃除してよいとき:
- 耳の治療中に、獣医師から自宅での掃除を指示された場合
- 耳に水が入った場合(猫ではまれです)
掃除を控えたほうがよいとき:
- 耳が正常に見える場合
- 黒っぽい耳垢が多い、または何かおかしいと感じる場合。耳ダニや感染症の可能性があるため、まずは動物病院で診てもらいましょう
- 耳が赤く腫れている、触ると痛がる場合。鼓膜(こまく)が傷ついている可能性があり、使えない洗浄液も多くあります
動物病院を受診すべきタイミング
以下の症状が見られたら受診をおすすめします
- 頭を片側に傾けている、または斜めにしたままにしている
- 何度も耳を掻いたり、頭を振ったりする
- 耳から黒っぽい分泌物や膿が出る、強いにおいがする
- 外耳道の赤み、腫れ、目に見える傷
- バランスを崩す、ぐるぐる回る、倒れる
- 眼球が小刻みに揺れる(眼振:がんしん)
- 耳介(じかい)にふわっとした膨らみができている
バランスを崩す、ぐるぐる回る、眼振が見られるときは、問題が中耳や内耳まで及んでいる可能性があり、外耳だけのトラブルよりずっと深刻です。吐き気を伴うことも多いため、早めに動物病院を受診しましょう。嘔吐のほかの原因については嘔吐ガイドをご覧ください。
耳介にできるふわっとした膨らみは「耳血腫(じけっしゅ)」といい、皮膚の下での出血です。多くの場合、愛猫が耳を掻いたり頭を振ったりすることで生じますが、そうした行動の背景には別の耳の問題が隠れていることがほとんどです。耳血腫そのものの治療も必要ですが、根本原因を突き止めないと再発しやすくなります。
猫に多い耳の問題
猫の耳のトラブルで多いのは、耳ダニと感染症です。若い猫ではポリープ、高齢の猫では腫瘍にも注意が必要です。
耳ダニ
耳ダニ(ミミヒゼンダニ:Otodectes cynotis)は猫の耳のトラブルで最も多い原因で、猫の外耳炎の 53〜69% に関わっています。子猫、多頭飼育の家庭、外に出る猫、保護施設やブリーダー出身の猫に特に多く見られます。
典型的なのは、コーヒーかすのような黒くてポロポロした耳垢と、耳をしきりに掻く、頭を振るといった様子です。耳ダニはノミのように飛び移ることはなく、直接の接触でうつります。猫同士は毛づくろいし合ったり一緒に寝たりするため、一匹に見つかれば、通常は同居猫全員をまとめて治療します。
ただし、コーヒーかすのような耳垢がすべて耳ダニとは限りません。酵母菌や細菌の感染、ポリープでも似た見た目になり、正常な耳垢のこともあります。獣医師が耳垢を顕微鏡で見れば、数分でどれかがわかります。原因によって使う薬が違うため、感染症を耳ダニとして扱うと、本当の感染はいつまでも治りません。
今は駆虫薬がよく効くので、以前のように何週間も点耳薬を続ける必要はほとんどありません。
細菌感染と酵母菌感染
外耳炎(外耳道の炎症)は細菌、酵母菌(マラセチア)、あるいはその両方によって起こります。酵母菌は炎症のある耳によく見られますが、多くは別の問題に伴って増えたものです。
その背景にあることが多いのがアレルギーです。耳の感染を繰り返す場合は、耳掃除を増やすより、背景のアレルギーを探すことが大切です。ノミ予防をしっかり行い、動物病院と一緒に食べ物や環境の原因を探るほうが、点耳薬を繰り返すより効果があります。
炎症性ポリープ
炎症性ポリープは中耳や耳管(じかん)の粘膜から発生する良性のできもので、外耳道や喉の奥まで伸びていきます。3 歳以下の若い猫に最も多く見られます。
ポリープは慢性的な外耳炎とそっくりに見え、通常の治療では治りません。耳のトラブルが何度も再発して治療が効かない場合、特に若い猫では、ポリープの可能性があります。鎮静や麻酔をかけた詳しい検査が必要で、画像検査を行うこともあり、治療は手術での切除になります。
老猫の耳の腫瘍
高齢の猫では、長年の慢性的な耳の炎症が、まれに腫瘍になることがあります。悪性で最も多いのは耳垢腺癌(じこうせんがん)で、周囲に広がっていく一方、ほかの臓器への転移はまれです。老猫で片耳の分泌物が続く、外耳道に何かできているのが見える場合は、動物病院で検査を受けましょう。掃除を繰り返しても解決しません。
本当に必要なときの安全な掃除方法
どの洗浄液を使うかは獣医師に相談しましょう。動物病院で扱うやさしい耳用洗浄液を使い、家にあるもので代用するのは避けてください。
基本的な手順は次のとおりです:
- 洗浄液を外耳道に注ぐ(ボトルの先端は柔らかくなっています)
- 耳の根元を 20〜30 秒やさしくマッサージする(クチュクチュという音が聞こえます)
- 愛猫が頭を振るのを待つ
- 外耳に見える汚れを、コットンボールかガーゼで拭き取る
外耳道の中には何も差し込まないでください。綿棒や指はもちろん、洗浄液のボトルの先端も入れないでください。外耳道は途中で 90 度に曲がっているため、まっすぐ奥に押し込むと鼓膜を傷つけたり、汚れを奥に押し込んでしまう恐れがあります。
使ってはいけないもの
- オキシドール(過酸化水素水):耳の組織を刺激し、残った水分が酵母菌の餌になる
- 消毒用アルコール:炎症のある皮膚にしみて、痛みや炎症を引き起こす
- 水:残った水分が感染を促進する
- 酢、精油(エッセンシャルオイル):炎症のある耳の組織を刺激する
よくある質問
猫の耳掃除はどのくらいの頻度ですればいいですか? 健康な猫のほとんどは一生耳掃除を必要としません。週に一度目で確認するだけで十分です。自宅で掃除が必要なのは、耳の治療中に獣医師から指示された場合だけです。健康な耳を掃除しすぎると、外耳道のバランスが崩れて感染しやすくなります。
猫の耳の中が黒いのは耳ダニですか? 必ずしもそうではありません。黒っぽい耳垢の原因は耳ダニだけでなく、酵母菌や細菌の感染、炎症性ポリープのこともあり、見た目では区別がつきません。確実に見分けるには、獣医師に耳垢を顕微鏡で調べてもらう必要があります。原因によって使う薬が違います。
猫の耳で動物病院に行くべきタイミングはいつですか? 頭を傾ける、バランスを崩す、耳を何度も掻く、黒っぽい分泌物、強いにおい、赤み、耳介のふわっとした膨らみなどが見られたら受診しましょう。バランスの問題や頭の傾きは中耳や内耳への影響を示している可能性があり、より深刻です。
参考文献
- Brame, B., & Cain, C. (2021). Chronic otitis in cats: clinical management of primary, predisposing and perpetuating factors. Journal of Feline Medicine and Surgery, 23(5), 433-446. PMC
- Cornell University College of Veterinary Medicine. (2024). Feline Ear Disorders. Cornell Feline Health Center
- Cornell University College of Veterinary Medicine. (2024). Ear Mites: Tiny Critters That Can Pose a Major Threat. Cornell Feline Health Center
- Cornell University College of Veterinary Medicine. (2024). Nasopharyngeal Polyps. Cornell Feline Health Center
- Companion Animal Parasite Council. (2024). Otodectic Mite Guidelines. CAPC
- International Cat Care. (2023). Ear Problems in Cats. iCatCare
- Merck Veterinary Manual. (2024). Inflammatory Polyps in Cats. Merck