愛猫のおしりをポンポンと叩くと、腰を高く持ち上げてゴロゴロ鳴きながら押し返してくる。ところが友人の猫に同じことをすると、振り向いてガブリと噛まれる。いったい何が起きているのでしょうか。
尾の付け根には何があるのか
脊髄(せきずい)は尾に入る手前で終わり、そこから「馬尾(ばび)」と呼ばれる神経の束が広がって、尾や後ろ足、排尿をつかさどっています。狭い範囲に、たくさんの神経が詰まっています。
尾の付け根の上側には、フェロモンを含む分泌物を出す臭腺(しゅうせん)もあります。愛猫が尾の付け根をこすりつけてくるのは、このにおいをつけているためです。
「エレベーターおしり」の正体
前半身を低くし、臀部(でんぶ)を高く持ち上げ、尾を横に寄せるあのポーズは、脊椎前凸反射(せきついぜんとつはんしゃ、lordosis)と呼ばれる脊髄反射です。尾の付け根のあたりを押したり叩いたりすると起こります。
未避妊の雌猫では、この姿勢は発情期の交配行動の一部です。避妊・去勢済みの猫やオス猫でもおしりを上げることがあり、「神経回路が残っていて、交配行動と切り離されただけ」という説明がよく使われます。ただし、この説明が猫で直接検証されたわけではありません。
実は「好きではない猫」のほうが多い?
2002年の研究では、飼い主さんが自分の猫の体の各部位を撫で、反応を比べました。目と耳の間は好意的な反応が最も多く、尾の付近では不快な反応が増えました。
2015年に発表された34頭の猫の研究でも、顔見知りの人と初対面の人の両方が撫でたところ、尾の付け根は否定的な反応が最も多い部位でした。
では、研究で「好きではない」という結果が出ているのに、愛猫が喜んでいるように見えるのはなぜでしょうか。
これらの研究で使われたのは、ゆっくりと撫でる動作です。背中をゆっくり撫でるのと、尾の付け根をポンポンと叩くのとでは、猫にとっては別の刺激なのかもしれません。あとは個体差です。本当に気持ちよく感じている猫もいれば、少し我慢してすぐ限界に達する猫も、最初から嫌がる猫もいます。
愛猫が本当に喜んでいるかの見分け方
ボディランゲージを観察しましょう。おしりポンポンを楽しんでいる猫は、腰を持ち上げて手に押し返してきます。ゴロゴロ鳴いたり、ふみふみをしたりもします。やめた後に自分から戻ってきたり、耳が前を向いてリラックスしていたりする様子が見られます。
一方、もう十分だと感じている猫や、最初から嫌がっている猫は、耳を倒したり尾を激しく振ったりします。振り向いて噛もうとする、歩いて離れる、おしりを下げる、瞳孔が急に開くといった反応が見られたら、すぐにやめましょう。
「気持ちいい」が「もう嫌」に変わるまで、あっという間のこともあります。判断に迷ったら、猫のボディランゲージについて詳しく知っておくと役立ちます。
正しい叩き方のコツ
健康な猫なら、普通の力加減でポンポンする程度で体を痛めることはありません。ただ、やり方にはコツがあります。
手のひら全体でおしりの肉づきのよい部分を叩き、背骨の真上は避けてください。力加減は軽めから中程度にしましょう。パチンと大きな音がするなら強すぎです。太鼓を軽くたたくように、一定のリズムを心がけましょう。
まず数回叩いたら手を止めて、愛猫が戻ってくるか様子を見ましょう。離れていったら、それ以上は追わないようにします。
シニアの猫には特に注意が必要です。腰から尾の付け根にかけての関節炎は高齢猫に多く、以前は気持ちよかった力加減でも今は痛みにつながることがあります。食事中、睡眠中、緊張しているときも避けましょう。
おしりへの反応が変わったら要注意
以前は喜んでいたのに、ひるんだり攻撃的になったりする場合は、腰や尾の付け根の関節が痛んでいるのかもしれません。特に高齢の猫に多く見られます。
尾の付け根をしきりに舐めている場合は、ノミアレルギー性皮膚炎の可能性があります。症状がこの部位に集中するのが特徴です。
触った後に背中の皮膚が波打つように動く場合は、猫知覚過敏症候群(ねこちかくかびんしょうこうぐん、feline hyperesthesia syndrome)の可能性があります。背中から尾の付け根にかけての皮膚が触覚に極端に敏感になる状態です。
こうした変化に気づいたら、動物病院で診てもらいましょう。
よくある質問
おしりを叩くと猫が腰を上げるのはなぜですか? 脊椎前凸反射(lordosis)と呼ばれる脊髄反射(せきずいはんしゃ)です。尾の付け根に圧力が加わると、臀部を持ち上げる運動反応が起こります。本来は未避妊の雌猫の交配姿勢ですが、避妊・去勢済みの猫でも見られます。「神経回路が残っていて、交配行動と切り離されただけ」という説明がよく使われますが、猫で直接検証されたわけではありません。出やすさには個体差があります。
猫のおしりを叩くのは体に悪いですか? 愛猫が楽しんでいるなら問題ありません。耳が前を向いている、ゴロゴロ鳴いている、自分から押し返してくるといった反応は喜んでいるサインです。耳を倒す、尾を激しく振る、振り向いて噛もうとするなら、すぐにやめましょう。
おしりを叩いていたら噛まれたのはなぜですか? 刺激が強くなり過ぎたためと考えられます。尾の付け根は神経が非常に密集しており、最初は心地よかった刺激がすぐに「多すぎる」に変わることがあります。噛むのは「もう十分」という愛猫からの最もはっきりしたサインです。
参考文献
- Ellis, S. L. H., et al. (2015). The influence of body region, handler familiarity and order of region handled on the domestic cat’s response to being stroked. Applied Animal Behaviour Science, 173, 60-67. ScienceDirect
- Soennichsen, S., & Chamove, A. S. (2002). Responses of cats to petting by humans. Anthrozoös, 15(3), 258-265.
- Amengual Batle, P., et al. (2019). Feline hyperaesthesia syndrome with self-trauma to the tail. Journal of Feline Medicine and Surgery, 21(2), 178-185. PubMed
- Pageat, P., & Gaultier, E. (2003). Current research in canine and feline pheromones. Veterinary Clinics of North America: Small Animal Practice, 33(2), 187-211.